2017年7月27日木曜日

お馬でひたすらぽっくりこ。

爺さん婆さんの集落はとうに彼方へ過ぎている。
お昼は少し遅かったものの、川沿いにある民家で漁師らしきおっさんと交渉し、川魚の塩焼きと団子汁みたいなものを食べた。
団子汁は兎も角、川魚の塩焼きはとても美味しかった。
川の水も底が見える程透明で綺麗。

「あ、ユリが咲いてる。」

山百合やまゆりこころきしか。」

珍しがっていると、巣守隆康がナイフで一輪いちりん切り取った。
わざわざ小さな竹を切って川の水を入れ、そこに活けて手渡してくれる。
日本の昔と同じなら、たぶん男尊女卑の社会なんだろうけれど、彼は珍しく紳士的で優しい人なんだろう。
うっかりときめいちゃったじゃん。

昨日の今日の付き合いだけど、このままこの人に着いて行って大丈夫そう、かな。

そんな事を思いつつも馬は進み、長閑な茅葺の家々が点在する田園地帯に差し掛かる。
不揃いに植えられた稲が青々としていた。

そんな綺麗な景色にも関わらず巣守隆康は

寝足ねたらぬ…。」

と、あくび交じりにぼやいていた。
早起きしてたけど、なんだやっぱり寝不足なんじゃん。
まあお腹一杯になったら眠くなるのもあるだろうね。私もちょっと眠い。

二人して睡魔と戦っていると、不意に、グァー、カッカという鳴き声が聞こえてきくる。
カエルかな、と思いながら何気なくそちらを向くと。
目に飛び込んできた生き物に、一気に眠気が吹っ飛んであっと声を上げた。

あれは。

トキ!?トキだよね、あれ!すごーい!すごーい!!」

そこに居たのは、学名ニッポニアニッポン――日本では絶滅したとされるトキだった。
小さな群れで十数羽程、田んぼの中や畦道あぜみちに居る。
うわーうわーと口を開けてトキを指差しはしゃぐ私。

ツキにあらずや。目慣れし鳥にて珍しからず。こなたよりは城の近ければ射て鵇汁ツキジルにせん。」

しかし奴は弓取り矢を番えトキを射てくれやがった。
仲間の突然の死にパニックになって叫びながら飛び立つ鴇達。
止める間すら無い、しかも一発命中である。

食うのかよ。
つーか、私のこれまでの感動を返しやがれ馬鹿殿。


***


それから。

射たえものを引っ提げて巣守隆康は馬を少し急がせているようだった。

田畑の中を進み、橋を渡り。
人の往来が増えてきて、町らしき場所を過ぎ、山道に入る。
そこでやっとスピードダウンした。

ゆっくりゆっくりポニーに乗って山を登っていくと、やがて物見櫓やのぼりみたいなものが見えだす。
それほど高くはない山の、頂の方に行くほど木々が減っているようで、視界が開けてきた。
幾重にも張り巡らされた柵や垣根、立派な建物が見える。

「あれは…」

「御許、あなたに見ゆるは我が巣守の弥栄城いやさかじょうそうらう。」

と、向こうから誰かが駆けてくるのが見えた。


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山百合やまゆりこころきしか。」
→「山百合が気に入ったのか。」

寝足ねたらぬ…。」
→「寝足りない…。」

ツキにあらずや。目慣れし鳥にて珍しからず。こなたよりは城の近ければ射て鵇汁ツキジルにせん。」
→「トキではないか。見慣れた鳥で珍しくない。ここからは城が近いから弓で射て(持って帰って)鴇汁トキジルにし(て食べ)よう。」

「御許、あなたに見ゆるは我が巣守の弥栄城いやさかじょうそうらう。」
→「ご婦人、あちらに見えるのは我が巣守の(支配する)弥栄城いやさかじょうです。」

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