2015年12月22日火曜日

エルマ坊ちゃんの大冒険!【1】

イシュラエア王国の王都サーディアへ向かう街道を、商隊が進んでいた。
雇われた護衛の乗る馬が頑丈な造りの馬車を囲んでいる。

馬車の中には幼い男の子とその父、使用人二人が乗っていた。
父は茶の髪と瞳の、王国にはよくある平凡な容姿をしていたが、その息子は髪こそ父と同色ではあるものの、母譲りの美しい紫の瞳と整った顔立ちをしていた。

馬車の旅とて揺られ続けていれば疲労が溜まっていく。
しかし王都はもうすぐの辛抱だ。休憩の折、王都から出てきたという他の商隊と出くわした。
そんな時に行われるのが情報交換である。父がその商隊の者と談笑し、幾つかの品を交換する。

「エルマ」

父に呼ばれ、彼はとてとてと走り寄る。
手に持っている何かの包みを見ている父に、息子はアメジストの眼差しを向けた。

「王都では、ケット・シー喫茶というのが流行っているようだよ――ほら。」

父が中身が見えるように開けて差し出したそれは、ふわりといい香りがした。

「これは世界中の葉茶と言って、ケット・シー達が育てているそうだ。」

エルマの父は王国辺境の街リュネで、朝露亭という大きな宿を営んでいる。
それが何故エルマを伴って王都まで商隊を組んでやってきたのかと言うと、新たな商売を始めるためと跡取り息子であるエルマの後学のためであった。

聞けば、王都では高貴な方々に世界中の葉茶なるものが持て囃されているらしい。
喫茶店なるものがあり、庶民でもお金さえ出せば飲めるとか。
美味しいお菓子に可愛いケット・シーの給仕…そこは天国のような場所だとか。

エルマの父は、ケット・シーの給仕は無理でも世界樹の葉茶を仕入れて猫獣人を雇い、食事の時間以外の宿の食堂を喫茶店のように使おうと考えていたのである。

「世界樹の葉茶、お淹れ致しました。あ、坊ちゃんはお熱いので冷めるまでお待ちになって下さいね。」

使用人から湯気の立っているカップを供される。エルマはどんな味がするんだろうと鼻を動かした。

ケット・シーが育てているという、これ。

エルマは父の持つその包みに捺された絵をじっと見詰めた。
そこには可愛らしい服を着た真っ白な毛並みのケット・シーと思われる生き物描かれている。
その猫耳にエルマは記憶を呼び覚まされる――忘れもしない、あの事件。

そう言えば、あの子もこんな耳をしていた。
どこかで元気にしてるかな?

彼は空を見上げ、澄み切った青いカンバスに人攫い騒動で出会った猫の獣人の女の子を思い出し描く。

(あまり話せなかったけど、もの凄く可愛かったなぁ…お嫁さんにするなら、あんな子がいいなぁ……)

今思い返すと、エルマにとってあの美しい女の子は淡い初恋のようなものだった。

そんな気持ちを抱きながら、エルマは世界中の葉茶の入ったカップを持つ。
ふうふうとしながら一口すすった数秒後に悲鳴を上げるとは知る由もなく。



***



その頃ケット・シー保護区では――

にーらめっこするにゃっ、わーろたらだーめにゃっ、あっぷっぷにゃー!!!

ケット・シー達のそんな掛け声と共に。
ニャンコはエルマ坊ちゃんの恋心を木端微塵にするが如き勢いで変なポーズで目をかっぴらき、二本の指を鼻の穴にぷすっと差した。
対面のミミは頬を両手で引っ張り舌を出している。

ぶっふー!!!

ニャンコが考え出した恐ろしい遊び……サドンデスにらめっこ。
一刹那の後、口から水を噴出して服を汚したのはミミの方だった。
ニャンコはごくんと喉を鳴らして口に含んでいた水を飲み込むとビシッとミミを指差し高らかに宣言する。

「にゃー♪ミミの負けにゃっ!」

「にゃっ……ニャンコッ、ゲヒンなカオをするんじゃにゃいでしゅにゃっ!!!」

「何を言ってるのにゃ。ショウブはキビシく世の中は熱湯で淹れたお茶のようなものなのにゃー?ハジもガイブンもオンナもかなぐり捨てて全力でやるしかないのにゃ!」

「ぎにゃっ…こ、今晩のわたくちのデザート……」

エアルベスとティリオンの拳骨が落とされる数分前である。

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