2015年5月18日月曜日

78にゃん

"猛き炎、アラグノール再び参上おおおおおおっ!!!!!!"

転移の泥を抜けるなりジュゲムが叫ぶ。
空から周囲をざっと見ると、時すでに遅く攻め入られてしまっていたらしい。

「――エアルベスしゃんは!?」

"丁度下にいるわよー!"

シルフィードの指さす方向を見る。唖然としてこちらを見上げるエアルベスさん。
あっ、本当だ、無事でいる――間に合って良かった!
耳元をウンディーネが囁く。

"最高神官ヴォード、イシュラエア王、ケット・シー達は全員地下洞窟に居ますわ。愛し子がいる場所が地下洞窟の入り口だから死守しなくてはなりませんわね。"

「分かったにゃ!――ジュゲムは外にいる公爵の兵士を脅して欲しいにゃっ、ギュンター公爵本人が居たら狙ってやるといいにゃっ!」

スィルに抱えられてジュゲムから飛び降りながら私は叫んだ。
"応!"という頼もしい返事。
ジュゲムの上にはサミュエルとマリーシャが残っている――という事は、彼ら以外は全員飛び降りたのだろう。

風の精霊が落下速度を緩め、ふわりと地面に着地した。
転移の泥が出来ていた場所に、体を半分埋もれさせた兵士が必死でもがいているのが見える。

その後ろからイナゴの如く次から次へと走ってくる新手。
しかしライオットはあっという間に全員昏倒させてしまった。

「あれ?――こいつら、数は多いがまったく強くないぞ?」

「てことは、緊急に徴兵された農民ってところかしら。」

弓で遠くの兵士を次々と無効化させながらスィルが答える。「止まっているようにさえ感じられるわ。」

……実は正規兵だけど、ライオット達が魔素の多い環境で強くなってるから弱く感じたんだろうな。

考えている間にもジュゲムの咆哮が聞こえる。
大神殿の周囲を旋回して外の兵士達を威嚇し、遠ざけているのだろう。

時折低く飛んだ時、サミュエルが魔法を打っている。
マリーシャは弓矢などの攻撃を跳ね返す結界を張り、また時々光の攻撃を繰り出していた。

ジュゲムは図体が大きい分、そうした細かな所は彼らが補っている。
流石は冒険者、咄嗟にその判断をするとはなかなかいい組み合わせである。

脅しのブレスを吐きながら旋回するドラゴンに、反乱軍はかき乱されたようだった。
あちこちで上がる、悲鳴や叱咤の声。

と、私は誰かに抱き上げられた――エアルベスさんである。

「――エアルベスしゃん、ダイジョウブだったかにゃ?」

「ニャンコ、ありがとう。危ないからここをずっと行ったところの地下洞窟に行ってください。そうすれば他のケット・シー達がいます。」

危ないから、の所で地下洞窟に通じていると思われる入り口に降ろされ、背中を押される。
しかし心なしか彼女の顔色が悪い。

「どうした、顔色が悪いぞ。」

私より先にティリオンが声を掛けた。
エアルベスさんは少しふらついて倒れかける。
それを支えたティリオンをすがりながらも、彼女は再び立ち上がろうとしていた。

「マニュエル伯爵の兵士を運ぶために……転移術を一度に使い過ぎただけです。少し休めば――」

「無理をするな。兵士の転移は地の精霊使いである俺が請け負ってやる。お前は他の者の心配をしているがいい。」

「あ…ありがとうございます!」

ティリオンはエアルベスさんをそっと立たせると泥を生み出してその中に消えた。

何だろう。ティリオンが凄く…まぶしい。

いや、それよりも。
エアルベスさんも体力的に限界そうだし、一緒に地下洞窟に行った方がいいよね。

"ここはわしと愛し子に任せるですじゃー。敵の兵士をどんどんトッツィグに送り、お味方の兵士をどんどん連れてきますですじゃー!"
ノームの言葉と共に敵の兵士達が次々と泥に飲み込まれていく。
反対に吐き出されているのは味方の兵士だろう。

「分かったにゃ。わたちとエアルベスしゃんは地下洞窟に――」

行くから、と言いかけた時。
地下洞窟への入り口に影が現れた。

「ニャンコしゃん!――帰って来てくれたのかにゃっ!?」

「ニャンコにゃん、にゃぜここに…?」

「ふにゃあああーん、ニャンコー!」

「にゃっ、タレミミ、ハチクロ、ミミ!――三人とも、元気だったかにゃー!」

「こらっ、地下洞窟に隠れていなさいって言いましたよね、何故勝手に出て来たのです!?」

久々に出会えた三人に喜びながら手を振っていると、エアルベスさんが力なく怒鳴る。
ミミがべそをかきながら叫んだ。

「らって、らって、エアルベスしゃまをシンパイちてるにょにゃー!!!わたくちたちだけでアンジェンなバショにかくれてるにゃんてイヤにゃー!!!」

「ミミ…」

「――エアルベスにゃん。みんにゃもおんにゃじ思いにゃのにゃ。」

「ハチクロ…」

「みんな、エアルベスしゃんを守りたいのにゃ。」

「タレミミ…」

三人は通路を振り返る。
そこには、職員さん達――それに、大勢のケット・シーが出て来ていた。

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