2015年5月7日木曜日

68にゃん

「ニャンコ、言葉が分かるのですか?」

相手を刺激しないように、マリーシャが努めて穏やかな声で問う。
私はクマル達から目を離さないままでこくりと頷いた。

「マリーシャしゃん。この女の人はクマルしゃん、男の子はハザラしゃんというのにゃ。"クマルしゃん、わたちの仲間を紹介するにゃ。"」

そのまま全員を紹介していく。
そのおかげか、クマル達は警戒を解いてくれたようだ。

「"成程、トッツィグの奴らじゃないことはわかった。魔族の国に行くと言っていたな。結構距離があるぞ。獲物も手に入ったし、良ければ私達の集落で休んでいけ。"」

おお、お招きしてくれるのか。

「"クマルしゃん、ありがとうにゃ!"――みんな、クマルしゃんが集落にお招きしてくれるそうだにゃ!」

水をヒュペルト様に大分無駄にされたのも手伝って、サミュエルとマリーシャはほっとした表情である。

「これで事前に買っておいた品が役に立つな。」

ライオットが笑みを浮かべる。
他の面々も、グンマ―ルの住人と友好的に接することが出来て安堵しているようだった。

「"ハザラ、お前は後ろを持て。"」

「"分かった、ねーちゃん!"」

クマルは事切れた巨大な魔蛇に近づくと、ひょいっと持ち上げた。
ハザラもその後ろの方を軽々と持ち上げる。

ライオット達は呆気にとられていた。
それでも蛇の長い胴体の一部はずるずると地面を引きずる形でクマルが歩き出す。
私もそれに続こうと――あれ。

彼らが動かない?

クマルと私は冒険者達を振り返った。

「ドウシタ?イクゾ。」

「にゃ?みんな、行かないのかにゃ?」


***


慌てて再起動した彼らと共に歩き続けて20分ほどだろうか。
森が突然開け、明らかな道が出来てきた。
更に10分も経つと、集落が見えてくる。

「"あそこが私達の集落クスァーツだ。ようこそ、客人。"」

「"熱い水の湧く場所もあるよ!"」

クマルとハザラが言う。熱い水の湧く場所――温泉の事かな?
私はライオット達に通訳しながら少しウキウキしたが、今の自分がお風呂嫌いな生き物になっていることを思い出してすぐ落ち込んだ。

ズルズルと巨大な魔蛇を引きずっていくクマル達。
集落の中の住人が一気に群がってくる。

「"おお、大物ではないか、でかしたクマル!"」

「"旨そうだな!"」

「"クマル、おいらのお嫁さんになって欲しいな。"」

等と、老若男女が口ぐちに大漁を喜んだ。

「"あれ――トッツィグの奴らか!?クマル、こいつらは!!?"」

一人のゴリラのように厳つい女性がこちらに気付き、大きな石斧をこちらに構えた。
他の住人も武器を構えたり距離を取ったり――こちらを警戒の目で見つめる。

「"ああ、大丈夫だみんな。彼らはトッツィグじゃない。魔族の国へ行くそうだ。"」

「"めんこい生き物がいるよね、ニャンコっていって、言葉が分かるんだよ!"」

ご紹介に与った私はいつものように愛想を振りまいた。

「"はじめまちてにゃ、ニャンコですにゃ!"」

おお、めんこい!――住人が私を見て口ぐちに驚き、騒ぐ。
手を振ると振り返してくれた。

「ニャンコ、通訳してくれ。友好のためにお土産を持ってきたと。」

「"みなしゃん、わたちたちはみなしゃんとおともらちになりたいのにゃっ!お土産持ってきたのにゃー!"」

ライオットはタイミング良く買い揃えた物を取り出し差し出した。
その品々に集落の住人は警戒心を解く。悪い奴らじゃないようだな、等と言っていた。

と、人々が左右に割れる。
その中央から、一段とアクセサリーや動物の皮や羽で飾りたて、ごつごつした杖をついた皺々のおじいちゃんがよぼよぼと現れた。

「"…グンマ―ルの外からやってきた者たちが居ると聞いた……"」

酋長、長、等という単語が聞こえる。
どうやらここのボスのようだ。
おじいちゃんはお土産を検分すると、こちらを見据える。

「キャクジン、ミヤゲ、ウケトッタ。ワシラ、キャクジン、タスケル、アレバ、イエ。」

神聖な儀式をしているかの如く厳かに言う。
そして、お土産を指さして後で皆で分けるように、今夜は宴だと言い捨てて去って行った。

「"良かったな、長に認められたからお前達はもうクスァーツの者だ。"」

クマルが微笑む。
私がそれをライオット達に通訳すると、彼らは安堵の息を吐いた。

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