2015年5月6日水曜日

67にゃん

私は無言でヒュペルト様――正確には大蛇を指さす。
ヒュペルト様はん?と思ったようで後ろを振り返った。

「んっ―――ぎゃあああああああああああっ!!!!」

ヒュペルト様は水筒を放り出すと愉快な悲鳴を上げ、這う這うの体で逃げようとする。
巨大な蛇は強者の余裕を見せて鎌首をもたげ、ヒュペルト様に近づいた。

「たっ、助けてくれお前たちっ――金でも地位でも何でも欲しいものはやるから!!!」

おお、いつもの間延びした口調ではない。こんな話し方も出来たんだ…。
ヒュペルト様はすっかり余裕を失いべそをかきながら助けを求める。
サミュエルはマリーシャを背後に庇い、手に火球を生み出すと大蛇にぶつけた。
しかし大蛇は私の魔法が効いているのか、サミュエルが更に火球をぶつけ続けても私たちには目もくれない。
狙いはヒュペルト様のみである。
逃げられない獲物を嬲る様にじりじりと距離を詰めていた。

「――おい、何があった!!?」

ティリオンが真っ先に駆けつけてきた。
続いてスィルが樹の上から飛び降りて来る。大蛇を見ると「ひっ」と表情を引き攣らせた。

「魔蛇か…ここまでデカいのは俺も初めてだ。流石は未開の地という事か。」

丁度その時、ライオットが駆けつけた。
大蛇を見て一瞬戸惑ったものの、ハッとして剣をスラリと抜く。
まず石を拾うとこちらに注意を引くべく投げつけた。

しかし蛇の注意は私の魔法でこちらには向かない!

ライオットは舌打ちをすると、口を大きく開けた大蛇に向かって駆け出す。

「うおおおおおおお――」

怒号を上げて大蛇に切り掛かろうとした、その時。
ぶぉん、と大きなものが風を切るような音が聞こえ、それが大蛇の口の中に飛び込んでぐさりと突き刺さった。

「おおおおっ!!!!―――お?」

ライオットは突然の事に戸惑い、攻撃を停止する。
その頃にはもう、巨大な魔蛇は硬直したかと思うとドサリと地面に頭を落とした。
よく見ると、突き刺さっているのは丸太のような杭だった。瞬殺である。

「"ふふふ、今日は大御馳走。"」

「"流石クマルねーちゃん!狩り上手い!"」

聞きなれない言語に後ろを振り向くと、茂みの向こうから二つの人影が現れた。


***


現れたのは緑色の肌の美しい女性と少年?だった。
耳の先が尖っていて、口からはドラキュラみたいに発達した犬歯が出ている。
少年?とはてなマークがついたのは、彼が体の小ささの割には非常にごつごつとした厳つく不細工な外見だからである。

少年はほぼすっぽんぽんで、申し訳程度にペニスケースを着用していた。
手には細い槍を持っている。

反対に女性は長い髪の毛を細かく分けて三つ編みにして流し、粗い布を一枚体に巻き付けるようにして着ていた。
両者とも首にはカラフルなアクセサリーをじゃらじゃらさせ、幾何学的な紋様の黒い入れ墨を顔や体に入れまくっていた。

「"あっ、ねーちゃん!こいつら!?"」

厳つい少年がさっと女性の背後に隠れた。
クマルと呼ばれていた女性は少年の槍を取って何時でも投げられるように構えると、牙をむき出しにしてこちらを睨み付ける。
美人の怒り顔は迫力があるな。

「オマエラ、トッツィグノヤツラ――ナゼココイル!!」

誰かの喉がゴクリと鳴った。緊迫した空気が場を支配する。
いち早く立ち直ったのはライオットだった。

「違う、俺達はトッツィグの者ではない!ただグンマ―ルを通過して魔族の王国へ行くところなんだ!」

慌てて言った言葉に女性は眉を顰める。

「……ナニイッテル?ハヤイ。」

「通じてないようです、ライオット。」

サミュエルが言う。
すると、「オマエ、ナニイッタ!」女性はピリピリと今度はサミュエルに槍の穂先を向けた。

ああ、ここは一刻も早く誤解を解いた方が良いな。

私は女性に近づいた。

「"おねーしゃん、わたちたちはマゾクの国へ行く途中なのにゃ。トッツィグの人間じゃないから安心してちょーらいにゃっ!"」

「"言葉が分かるのか……めっ、めんこい!!!"」

女性は驚きながらも私を見て顔を輝かせた。
少年も彼女の後ろから出て来て、表情を綻ばせてじっと見つめてくる。

「"ねーちゃん、何このめんこい生き物!オラ初めて見た!"」

「"わたちはケット・シーのニャンコというのにゃ!よろしくにゃっ!"」

「"よ、よろしくめんこいの。私はクマル、こいつは弟のハザラ……"」

畳み込むように自己紹介すると、呆然と挨拶を返してくれるクマル。
ハザラも「"よろしく!"」と厳つい外見とは裏腹に乙女のようにはにかんでいた。

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