2015年5月3日日曜日

65にゃん

大男は立ち上がった男たちをちらりと見て牽制する。
彼らは大男を恐れたのか、舌打ちをして酒場を出ていった。
大男の頬には大きな傷痕。
何だろう、世界が一瞬ゴ●ゴばりの劇画調に見えたんだけど。

「――ここは魔族の土地の目と鼻の先、前線の街トッツィグだ。遊びなら他所でやんな。」

言って、大男はこちらに視線を戻す。
ライオットがもしかして、と驚愕の表情を浮かべた。

「あんたは…クァッドさん!?俺の事を覚えてくれていますか、ほら、駆け出しのころにお世話になった――」

「ん?あっ、お前ライオット=コルトか!そんな立派ななりしてるから分からなかったぞ!て、ことはそっちはサミュエル=シードか。お前達、大きくなったなぁ!こんなに立派になって!」

クァッドと呼ばれた大男は破顔してライオットとサミュエルの頭をガシガシと撫でる。どうやら昔の顔見知りのようだ。
サミュエルはもういい大人なんだからやめてくださいよ、と苦笑いしている。
ライオットは私達の方を一旦振り返った。

「えっと、こちらはクァッドさん。俺とサミュが昔お世話になった人なんだ。ところで、クァッドさんみたいなS級冒険者が何故ここに?」

ライオットが聞くと、クァッドはガハハと豪快に笑った。

「――何、死に場所探しと自分の実力を試したかったのよ。ところでお前たちこそ何故こんな辺鄙なところに?」

「それは……」

ライオットはS級冒険者クァッドに理由を話した。
クァッドの表情がだんだん歪んでいく。
こちらのやりとりを注意していたであろう周囲の屈強な男達も、ざわざわとし始めた。
「何て無謀な…」とか「死にに行くようなもんだ」とか「俺達だってここを守るので精いっぱいなのに」とか……不穏な言葉ばかり聞こえる。
熟練のS級冒険者は、しまいには至極真面目な表情でライオットの肩をガシッと掴んだ。

「――悪いことは言わん、魔族の国には行くな。そうでなければとりあえず一番良い装備で行け。」

「え、は…?」

「一番恐ろしいのは未開の地グンマ―ルに住む者たちだ。未開の地を過ぎれば文化的な魔族の王国へ入れる。ただ、問題は未開の地を過ぎて魔族領へ辿り着けた者は、百年に数人ほど――それほどの生存率と考えておけ。」

「まさか、嘘だよな?クァッドさん、昔みたいに俺をからかって――」

冷や汗をかき始めたライオット。
しかしクァッドは深刻な表情のまま、俯いた。

「そうだったらどんなに良いか……お前のように俺の忠告を話半分に舐めてかかった奴らは二度と戻ってこなかった…。」

「!!!」

冒険者達に衝撃が走る。
S級冒険者でさえそう言うのだ。未開の地とは、そのように恐ろしい場所なのか。

「人間の王国が、目の前に広がる手つかずのあんな広大な未開の地を征服して開発しないのは――何故だと思う?」

「そ、それは……」

「単純明快に言えば出来ないからだ。グンマ―ルの住人に、王国は手も足も出ない。奴らは魔狼でさえ赤子の手を捻るように殺せる化け物ぞろいだ。人間側は、せいぜいこの街を要塞としてやつらが攻めてこないか見張ったり、未開の地をはぐれてくる魔物を退治するが関の山だな。」

「しかし、精霊の移動術があれば?」

ティリオンが口を挟んだ。しかしクァッドは首を振る。

「精霊の力が通用するならとっくにグンマ―ルは人間の支配下にあっただろうよ。いいか、未開の地では精霊の移動術なんて使えないんだ。精霊を狂わせる何かがあるんだと――昔来た精霊使いはそう言っていた。」

「……。」

「王命である以上どうしても行かなければならないのなら、グンマ―ルの住人と争わず穏便に通り抜ける方法を考える方が利口だ。特にお前達の実力ではな。グンマ―ルでは通貨は通用しない。代わりに砂糖、酒、煙草、魔石等を買っておけ。渡せば友好関係を築けるだろう。」

クァッドの言葉に皆言葉を失った。
酒場にいる全員も、固唾を飲んでこちらを見守っており、静寂が訪れる。
精霊の移動術も使えないとなると、死を覚悟して地上を歩いて行かなければならない。
暗い表情のクァッドは重々しい口調で静寂を破る。

「行くなら死を覚悟して行くんだな……遺言状はここで書いておけ。一定期間戻らなければ、俺が責任もって届けてやる。」

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