2015年5月23日土曜日

83にゃん

「『風の精霊』、シルフィード、咆哮の衝撃をドラゴンの周囲に留めて和らげてちょーらいにゃっ!!!」

"はいさー!皆、がんばるよー!!!"

"よっしゃ、ばっちこいよー!"

"ドラゴンを囲んで―!!"

シルフィード以下呼び出されたおびただしい数の風の精霊達がゾンビドラゴンを囲む。
これでみんなの耳は守られる筈だ。

その直後、咆哮が上がった。

風の精霊の守りがあってさえ、びりびりと耳と結界を打ち付ける咆哮。
それをまともに喰らったらいかばかりの衝撃か。

間一髪だった、危なかった、と思う。

「ぐっ、なんて大きさだ……」

「耳が痺れてるわ…こんな化け物なんて…勝てる訳ない…」

「しかし、ここで何とか食い止めないとこの国は……」

「ええ、終わるでしょう。この国ばかりではなく他の国々も全て。」

ライオット、スィル、マリーシャ、サミュエル。彼らの顔は青を通り越して蒼白になっていた。
ティリオン、エアルベスさん、王様にマニュエル様、兵士達も同じ表情をして固まっている。
地下洞窟には避難しなかった一部のケット・シー達も毛を逆立てさせ、尻尾を股の間に挟んで怯えきってしまっている。

ゾンビドラゴンは、人間が戦うにはあまりにも存在感が違いすぎたのだ。
全員が全員、戦意を消失していた。

ゾンビドラゴンが結界にぶつかり、苛立ったように尻尾を打ち付ける。
結界がみしみし音を立てた。

やばい、壊れるかも知れない。

そう思った時、ドラゴンが口を開けた。
毒々しい色のブレスを結界にぶつけ――高い音が響いたかと思うと、結界が、壊れた。

「『世界樹の畑にゾンビドラゴンの攻撃に対する防御機能の結界が張られる』にゃ!!!」

「スィル、サミュエル、マリーシャ――迷っている時間はない、行くぞ!!」

「にぎゃっ!!!?」

ちょっと待って!!!

私は慌てた。
結界が壊れたと悟った冒険者達が、先走ってゾンビドラゴンに向かって駆けだしたからだ。

「ジュゲム、彼らを助けてちょーらいにゃっ!!!『地の精霊』『水の精霊』『火の精霊』ゾンビドラゴンの動きを封じてちょーらいにゃっ!!!」

"了解ですじゃー!"

"行きますわよ!"

"任せとけ!"

叫ぶと、返事と共にドラゴンの動きが緩慢になる。
ジュゲムにはサラマンダーが声を届けてくれたらしく、冒険者達に向かって真直ぐ飛んで行くのが見えた。
その際、ジュゲムは牽制の為にブレスをゾンビドラゴンにぶつけている。

もがくゾンビドラゴンを尻目に、冒険者達の前に降り立つジュゲム。
それだけでどうすれば良いのか悟ったのか、彼らは乗り込んでくれた。

翼を動かし、ジュゲムは上昇していく――しかし、ゾンビドラゴンが立ち直る方が早かった。
私は考える時間もなかった。
咄嗟に使い慣れた魔法を使ってしまう。

それが、仇になった。

「『ゾンビドラゴンは食中毒になる』にゃ!!!」

しかしそれも空しく彼ら目掛けて忌まわしい口が開かれ、そして。

「皆さん!!!!」

「ライオット!!!サミュエル!!!マリーシャ!!!スィル!!!」

エアルベスさんとティリオンが叫ぶ。
私は視線を逸らせず、ただその声を聞いている事しかできなかった。
食中毒魔法は効かなかった――それはそうだ、ゾンビだもの。

全員が、ジュゲムごとゾンビドラゴンのブレスに飲み込まれ――ジュゲムは兎も角、耐性のなかった人間やエルフの身では。

「にゃあああああああ―――――っっ!!!」

自分のせいで、彼らが死んでしまった!

涙を流しながら悲鳴を上げると、周囲に光の粒子が踊った。


***


その光の粒子は集まり、4つの塊を作る。
そして、人の形になると、パンと弾け飛んだ。

「――ああああっ……にゃ?」

あれ?
さっきゾンビのブレスでやられた筈の彼らだ。

何故、と思った瞬間に思い出す――そうだ、自分が渡したお守り!
即死攻撃を受けた時に身代わりになって、彼らの身を自分の近くに転移させる効果を付与していたんだった!

「何故、俺達は…」

「ドラゴンのブレスに巻き込まれたのに、生きてる?」

「まさか」

呆然としているライオットとスィルの疑問にマリーシャがはっとなって懐を探る。

「……ニャンコのお守りですか?」

「なくなっています――そうとしか。」

サミュエルが訊くとマリーシャは頷いた。

「みんにゃ…良かったにゃ…良かったにゃ……」

もし、お守りを渡していなかったら。
もし、致死攻撃を受けた時の効果を付与してなかったら。
彼らが失われたら、と考えると恐ろしかった。

ボロボロ泣きながら言うと、お守りを探っていたライオットが「またニャンコに助けられようだな」と苦笑する。
その間にも、三度目のブレスがぶつけられて結界が悲鳴を上げた。

そうだ、もう二度と大切な人を失わないためにも、今はゾンビドラゴンをどうにかしなくては。

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