2015年5月22日金曜日

81にゃん

ギュンター公爵は焦っていた。
これは、あの水の精霊使いが引き起こした状況に違いなかった。

ドラゴンが火を噴き、その上に乗った魔術師と神官と思われる者たちが火球や光の矢で以て次々と攻撃を加えてくる。
特にドラゴンの出現は、兵士たちを混乱と恐怖に陥れるのに十分だった。
それでも数の上で優勢であればまだ踏みとどまっていたのだが、報告でケット・シーと王、それに剣士とエルフが目覚ましい動きで戦っているという。
その中に鈴をつけた純白のケット・シーが居ただろう、と問えば答えは是であった。
やはり、エアルベスは魔王の国へ行った者たちを呼び出していたのだ。
元来王やケット・シーに十人以上を相手取る武力などない筈――という事は、ニャンコ=コネコがあの鈴で奇跡を起こしたに違いない。

「――バカ息子め、失敗しおって!」

こうなった以上、何としてでもニャンコ=コネコを――出来なければその鈴だけでも我が手中に収めなければわが軍は負ける。
ギリギリと歯を噛みしめていると、闇の神官が不気味な笑みを浮かべて近づいて来た。

「戦況が覆されそうになっているとお聞きしました。準備は出来ておりまする――お使いになりますかな?」

「……。」

ギュンター公爵は即答は出来なかった。
使うという事はそれだけの代償を必要とするからだ。

「これ以上逃げ帰ってきた役立たず共を置いておいても仕方ありますまい。」

「……安全だという保証はあるのか?」

「代償が多ければ多いほど安定しまする。」

「よもや失敗はすまいな。」

「ご決断さえ頂けますれば。」

言外に含まれた意味。
これまで様々な悪事に手を染めて来た公爵でさえ躊躇うほどの決断。
しかしこの闇の神官はいやに使いたがっている気がしていた。

「何故そう使いたがっておるのだ?」

「戦況を覆したのは剣士とエルフのいる冒険者一味だとか――個人的に恨みがございますゆえ。」

公爵はロドリゲスが牢に捕われたいきさつの報告を思い出した。
成程と合点がいく。

「そうであった、そなたが失敗したのもあやつらのせいだったか。」

「向こうには水の精霊使いがおりまする。風の精霊使いもおりますゆえ、こちらの情報は筒抜けかと。時間がたてば経つほど、こちらが不利になりますな。」

ロドリゲスの言葉にギュンター公爵は考えた。
自分の決断如何で明暗が分かれる――こちらとて、絶対に失敗は出来ない。
如何に精霊使いの力を駆使しようとも、それをなぎ倒す程の力を以て全てを破壊してしまえばよい。

「ぐっ――分かった、大事の前には小事を捨てねばなるまい。」

賽は投げられた。


***


"ニャンコッ、ギュンター公爵のやつ、とんでもない事をしているわー!"

シルフィードの焦った声。
口で言うのももどかしいのか、視界共有をしてきた。

高所から見ているであろうそれ。

地面にとても大きな魔法陣が描かれているのが分かった。
魔法陣の中には大きなドラゴンの骨らしきものと沢山の魔物や人間の死体が集められ、高く積み上げられている。

魔法陣の外に闇の神官らしき人間が大勢居て、なにやらむにゃむにゃと唱えていた。
やがて魔法陣全体が赤黒い光を放ち始める。

なんか、やばい事してるよね?

そう思った時、赤黒い光は魔法陣に積み上げられた物を全て飲み込み、蠢き始める。

――さあ、破壊のドラゴンよ!我らの血肉を以て蘇るがいい!

叫んだ神官の一人に見覚えがあった。ロドリゲスだ。
どうやって牢から逃げたのだろう、いや、そもそもギュンター公爵自体が黒幕だったのかも知れない。

蠢きだした赤黒いモノは、やがて一つの形を取り出した。

途轍もなく巨大なドラゴンだ。
それも、ジュゲムより二倍は大きい。

ロドリゲス神官がそれを見て壊れたように笑う。

「なんと拾い物をしたことよ――古の邪竜の骨だったとは!」

その赤黒い巨大なドラゴンは、虚ろな光を宿した目を開けて咆哮を上げる。
闇の神官達はその衝撃に吹っ飛んだ――ロドリゲスももれなくである。

一拍遅れて咆哮の衝撃が大神殿全体を襲う。
離れていてさえ、ビリビリとした衝撃である。

少なくとも落雷ぐらいの衝撃はありそうだ。
ありゃあ、鼓膜破れてるよね。

"あああっ、いきなり制御出来なくなってるわー!"

あ。

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