2015年5月20日水曜日

80にゃん

「ちょっ、ニャンコ!?」

「王まで一緒に居たら意味ないだろうがあああああ!?」

等と、スィルとライオットの声が聞こえたような気もしたが、一斉に敵兵を打ち上げだした私達には誰の制止も意味を成さなかった。

一騎当千、という言葉がある。
文字通り一人で千人を相手取るぐらい強い、という事だ。

ちらりと周囲を見るに、一騎当千とは行かぬまでも一騎当十ぐらいはいっているだろうか。
今のケット・シー二百数十余名+αはつまり、少なくともその十倍の二千人の兵士を相手取る事が出来るという事になる。

「うわーはははははは!このような爽快な戦は余は初めてぞ!!!」

ポンポンポン、と面白いように兵士達が宙を飛ぶものだから、イシュラエア王はナチュラルハイに陥っている。
持っていた棒切れはもう使い物にならなくなって捨てている。

斬られても射られても魔法を打たれてもノーダメージなのに気づいてからは、王様も拳勝負だ。
また、王様はいい敵兵ホイホイにもなっている。

「イシュラエア王、お命頂戴いいい――ぐしゅんぐしゅん、ぶべら!!!」

「あにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!!!ジャマにゃ――っ!!!」

「何だ突然鼻がムズムズして――たわば!!!」

「ケット・シー如き、この俺…ビェックショイ、あれ涙が止まらな――あべし!!?」

「ジャマだと言ってるのにゃっ!!!」

王の首級を!と兵士が群がってくるのを、ケット・シー達がひっかき、噛みつき、そして殴り飛ばしている。
止まらないクシャミと涙、鼻水まみれに顔をくしゃくしゃにした兵士達が次々と空に打ち上げられていく。
まさに破竹の勢いで私達は進軍し、瞬きの後――動けなくなった兵士の山が背後に築かれていた。

「グシュッグシュッ……な、何だ、ケット・シーってこんなに強かったのか!?」

「涙が止まらない…どうしたっていうんだ俺の体は!?」

最初は外見の可愛らしさ、か弱さに騙されて突っ込んで来ていた兵士達が躊躇いだす。
そこへ、肉屋をしてそうな――200㎏はありそうな力士タイプの大男――ブッチャー(仮名)が現れた。

「お前達、情けないぞ!たかがケット・シー如きに怯むとは!」

「た、隊長!」

隊長が来てくれた!――及び腰だった兵士たちが俄かに活気づく。

ブッチャーは不細工な顔を更に不細工にゆがませた。
猫アレルギーの症状は出ているのだろう、クシャミを我慢しているのか、険しい表情で涙を流していた。

「俺は簡単にはやられんぞ!!!かかって――」

私は体全体で頭突きをかました。
ブッチャーと共に宙を飛ぶ。

「ああ、隊長があんなに高く――!?」

「うにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ――ほあにゃーっ!!!!」

「ひでぶっ!!!」

落下するところでブッチャーの体に拳を叩き込んで地に落とす。
ブッチャーは何回か地面をバウンドしてあっさり気絶した。
シュタッと地面に降り立った私。ゆっくり立ち上がり、兵士の方を振り向く。
ケット・シー達が、喉を低く鳴らして威嚇の唸り声を上げた。

「……ば、化け物…ックション!!!」

「た、退却しろ!退却っ!!!」

「退け、退けいっ――ハクシッ、ヘクシッ、くそっ!!!」

恐らくブッチャーは兵士達の心の拠り所だったのだろう。
私達によって数を大幅に減らした上、頼みの綱もやられた彼らは尻尾を巻いて逃げだした。

「にゃっ、テキは逃げ出したにゃっ――このまま追げ、むぐっ!!?」

「待て、ニャンコ――今は傷ついた人を介抱して体制を立て直す方が先だ!」

「深追いは危険よ。」

追撃、と続けようとした時。
追いついて来たライオットの手で口を覆われ、私はコクコクと頷いた。


***


「光の神イーラしゃま、この人のキズを癒してちょーらいにゃっ!」

私の言葉に怪我人が光に包まれ癒されていく。
軽めの怪我の人は職員さんや普通の神官さん達が当たっているが、結構重症な人は最高神官ヴォードや高位神官、私が治療して回っている。先程の人は腕を切り落とされていたが、すっかり元通りだ。
その傍らで、大活躍したケット・シー達がはしゃいでいた。

「ボクは強かったんだにゃー!」

「俺、すごいにゃっ!ちぎってはなげ、ちぎってはなげにゃ!」

ハチクロが両腕を握りしめちからこぶをつくる所作をし、タレミミがシュッシュッとシャドーボクシングをする。
他のケット・シーも同じような感じである。
エアルベスさんも少し元気を取り戻しており、ミミを抱きしめて皆を温かい目で見つめていた。

王様はと言うと、ティリオンが連れて来てくれたマニュエル様、最高神官ヴォード、そしてライオット達と共に戦況分析とこれからの戦略を何やら語り合っている。

ジュゲムは大神殿の上を飛び、退いた反乱軍を威嚇し続けてくれている。
シルフィードによると、反乱軍は現在大神殿から数キロ離れた所まで退いており、こちらの動向を伺いながらやって来るであろう諸侯を警戒しているようだ。

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