2015年5月16日土曜日

76にゃん

「ニャンコ…それはニャンコがドラゴンの従僕になったという事ですか?」

マリーシャが、今幻聴が聞こえたのかな、というような事を思ったのだろう、そういう表情で訊ねてくる。
私は勢いよく頭をプルプルと横に振った。

「違うにゃっ、そのギャクで、ドラゴンしゃんがわたちのジュウボクになったのにゃ!」

「えええええええっっ!!?」

冒険者達は余りの事への驚愕に声を上げた。

「ニャ…ニャンコがドラゴンの主……」

「信じられない……」

「それは本当なのですか?」

サミュエルは魔王の方を見た。
スカーレットさんは間違いない、と頷く。

「ニャンコは誰も言えなかったドラゴンの名前を言う事が出来ましたわ。私も、まさかニャンコが主になる程魔力が多いとは意外でしたが。」

沈黙。
その場にいる全員、魔族も人間もエルフも問わず、皆の視線が私に集中した。

「それだけじゃないにゃ…わたちは力持ちなのにゃっ!」

言って、部屋にあった人一人よりも大きな壺を軽々と持ち上げる。

「にゃっ、こんなの軽々なのにゃー!」

調子に乗って、ほいっほいっと軽く投げて見せる。
それがいけなかったのか、ある瞬間。
つるり、と手が滑った。
床に落ちた大きな壺が粉々に砕ける。

「「「「「「あ。」」」」」」

冒険者達は茫然としていたが、魔族の人たちは一様に顔をムンクにする。
スカーレットさんは、割れた壺の残骸をブルブルと震えながら指さしていた。

「ニャ…ニャニャニャニャンコ……!それ、国家予算並みの価値があるのよ!?」

えっ、国家予算並み!?
それってかなり凄い大金じゃないか!
私はさーっと青ざめた。ど、どうしよう…そうだ、チート能力で直せば!

「にゃっ――『割れたこの壺は元通りになる』にゃっ!!!」

呪文が働き、時間を巻き直すようにみるみる内に元の形に戻った壺。

「ニャンコ……もしかして………」

「……そうにゃ。わたちのマホウはジユウジザイなのにゃ――いにゃ、それよりも!早く王国に行かなきゃいけないにゃっ!」

私の指摘にはっと我に返った冒険者達。
そこへスカーレットさんが声を掛けた。

「皆さん、急ぐことでしょう。この魔王スカーレット=エクトマ=レトナークは人間の王国イシュラエアとの友諠を結ぶ事を望みます。王国の危機に向かうあなた方に、ニャンコと契約したドラゴンを一匹お貸ししましょう。本当はドラゴン部隊をお貸ししたかったのですが、それは反対にあなた方への疑惑を招き、また魔族と人間との戦争になりかねませんから。」

凛としてスカーレットさんが宣言する。

「スカーレットさん――いや、魔王陛下。それで十分です。ご厚意、ありがとうございます。」

人間側を代表して、ライオット達は席を立つと膝をついて頭を垂れ、謝意を示した。
ドラゴンに乗れば、いち早く転移可能ポイントまでたどり着き、王国に帰還出来る――それにドラゴンが一匹居れば戦力差も簡単に覆るだろう。

しかしドラゴンが居ても戦に向かうのだ。
戦は戦である――いつ死ぬか、分からない。
最後の晩餐かも知れない食事。
皆、味わって食べているようだった。

朝食の後、慌ただしく出発の用意をする。
昼前には私達は空の上を飛んでいた。

大気を翼が切り裂く――ドラゴンは速い。
魔素が薄めの空の高い場所を、シルフィードに風を和らげて貰いながらの飛行。
速度を上げるために魔法を掛けたのもあって、私達は来た道を一日で越えた。
グンマ―ルの広大な森を越えると、大地がボコボコとぬかるんでいるのが見える。
ノームが転移の渦を作ってくれているのだ。

"大神殿の結界の外、中庭に出るようにしてますじゃー!"

"応!ニャンコ、我らは直接神殿の地に出る――行くぞ!"

ノームが叫び、ジュゲムが吼える。
私達はドラゴンごと転移の泥へと飛び込んで行った。


***


イシュラエア王国王都サーディア。

イシュラエア王はギュンター公爵のクーデターによって王宮を追われ、大神殿に逃げ込んでいた。
大神殿は公爵の私兵ですっかり包囲されている。
また、王都の門はすべて閉ざされていた。
異変を察して諸侯が動いてくれればいいのだが、何時まで保つか。

「私が諸侯に知らせましょう。ここから一番近く軍を動かせるのはマニュエル=ド=ヴェンネルヴィク伯爵様ですね。」

不安に苛まれる王族達にエアルベスが申し出る。
イシュラエア王は彼女に対して自分の行いを恥じた。しかし今更恥じても今の自分には罪滅ぼしすら出来ないかも知れない。
書簡をしたため、瓶に詰めて栓をする。エアルベスが水の精霊にそれを委ねた。

「しかし私の今の力では、頑張っても百数十人の兵士を運ぶのが限度かも知れません…。」

力なく言うエアルベス。
味方を増やしたとて、一日にそれだけしか増やせない。
しかも包囲されている現状。味方になってくれる貴族から水を介して補給物資を貰うにも、準備というものがあるだろう。
数百人分の物資。それに兵士も運ばなければならない。

「――せめて、今一人移動術を使える精霊使いが居れば。」

脳裏に地の精霊使いティリオンを思い浮かべながら思う。
彼女にとって心懸かりはまだある。
愛するケット・シー達だ。いよいよとなったら命を削ってでも力を振り絞ってここから逃がさなくては。
しかし逃がすにしても、身分上先ずは王を優先させなければならない。

「エアルベスしゃん…」

一人のケット・シーが心配そうに彼女の裾を引いた。
それに笑顔を作って見せながら、エアルベスは心の中で血を吐くような想いで光の神に祈る。

一刻も早く、援軍が届きますように――。

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