2015年5月15日金曜日

75にゃん

「ニャンコ、一緒に寝ましょう。」

スカーレットさんがやけに笑顔でそう言ってきた。

「にゃー……わかったにゃっ!」

私は魔王様のベッドがどんなものか知りたいのもあって、一緒に寝る事にする。
赤いカーペットの敷かれた長い廊下を歩いた先、重厚な扉。
案内されたそこはスカーレットさんのお部屋である。

歴史を感じさせるような軋みを上げて開かれたそこは、実にゴージャスなものだった。
内装は地球で言うなら中東風の王族の部屋である。

細かな刺繍の施された円筒形のクッションがたくさん置いてある、低くゆったりしたソファ。
床には複雑に織られた美しいカーペットが敷かれ、壁一面モザイクが幾何学模様を描いている。
高い天井にもモザイクがあり、ガラス細工の巨大なシャンデリアが下がっている。

そして、ベッドが凄かった!
流石、魔王様のベッドだ。
憧れの天蓋付き。
4、5人は寝れそうな大きく非常に豪華なものである。

「スカーレットしゃん、転がってもいいかにゃ?」

目を輝かせながら振り返って訊くと、スカーレットさんは笑顔で頷いた。
部屋に控えている侍女の方は私のはしゃぎようがおかしかったのか口に手を当てている。

同意も得たことだし、私はベッドにえいっとダイブした。
ぼふん、と柔らか過ぎる布団に体が沈む。
ゴロゴロした後、頭の上を布団側につけるようにし、お腹を見せる体勢になる。
動物がよくやるあの姿勢だ。
視界は天地逆に見えるが、この恰好はなかなか心地良い。

「ぐふっ……もうダメ!耐えられないわ!」

スカーレットさんはベッドの傍にタタッと走り寄ってくると、私のお腹に顔をうずめてすりすりグリグリした。

「ああああああ、気持ちがいいいいいいっ!!!!しかも、洗い立てだから凄くいい匂いいいいいいいっ――病みつきになっちゃう!ニャンコ、私と一緒に暮らさないかしら?」

そんな事を言いながら私の毛に沈む彼女は、あの時のクマルと同じ表情をしている。
ケット・シーという種族は昔からこうして様々な人をそのモフモフで狂わせて来たのだろうな。

そしてここにまた一人――モフモフの魅力に陥落した。

モフられる事にいい加減慣れてきた私はそんなことを思った。
それから折に触れ、「魔王様だけずるいですわ」と側近や侍女のお姉さんたちにもモフられる事になる。

魔族もエルフと同じく美形が多い。スタイルも抜群だ!
美人揃いのお姉さんに囲まれているこの状況は何というハーレム状態!
私はチートだから、これぞチーレムというやつである。
上品な香水でもつけているのか、かすかに花のような良い香りもする。

モフられがてら同じ香水らしきものを使ってブラッシングもしてもらっていたから、私もいい匂いになって毛並みはつやつやになったのは良かったと思う。


***


魔族の街を観光したりして、旅の疲れもすっかり癒えた数日後。
和やかな会話の飛び交う朝食の席でそれは起こった。

"――ニャンコ、大変ですわ!!!ギュンター公爵がイシュラエア王に対して反乱を企てましたの!!!ギュンター公爵の私兵が王宮を包囲し、イシュラエア王は抜け道を利用して大神殿まで逃れましたけど時間の問題ですわ!!!"

「――何ですって!?」

「に゛ゃああああああああああっ!!!?」

鈴から飛び出してきて王国の危機を叫んだウンディーネ。
同時に声を上げたスカーレットさんと私にライオット達は怪訝な表情を見せる。
しかし私達が矢継ぎ早に事情を話すと顔を険しくした。

「――それが本当なら、こうしちゃいられない!代々王家に仕えてきたコルト家の者として王を、ひいては王国の民を守らなければ!」

「ライオット、私も力を貸すわ!」

しかしライオットは良い顔ををしなかった。そりゃそうだろう。
好きな女性を危険な目に遭わせたい男なんていない。

「待て、スィル。これはエルフには関係ない事だ。ましてやエルフの姫、人間の王国の争いに巻き込まれるなど、許されるはずがない。」

「そんな事は関係ないわ!私はずっとずっと、ライオットと一緒にいるって決めたんだから!」

否を唱えたライオット。スィルは涙声で叫ぶように言った。
そこで私はじわじわと事態の重さを感じ取る。
スィルの悲痛な声に賛同する者が現れた。

「そうですよ。その気持ちを無下にしてはいけません。私達もライオットに着いて行くと決めたんですから。一人で死地には行かせられませんよ。」

「私も皆と同じ気持ちです。それに、大神殿の危機――何としてでもお助けしなければ!」

「気が乗らんが俺も付き合ってやろう――転移の術は便利だろう?」

「二人とも…それにティリオンまで……」

サミュエルとマリーシャ、ティリオンの温かい言葉。
ライオットはありがとう、と小さい声で呟いた。
よし、私も!

「にゃっ、わたちも行くにゃっ!」

「「「「ニャンコはダメ」」」」

勢いよく立候補すると一斉に否定された。

えー。なんでー?

「ニャンコ!ダメよ、ニャンコは戦えないじゃない!」

スィルが柳眉を吊り上げて怒る様に言う。しかし私は引かないぞ。

「戦えるにゃっ、食中毒魔法があるにゃっ!」

「流石にニャンコはダメだ!――ニャンコ、良い子だから此処に居てくれ。これは戦争なんだ、これまでのように魔物を相手にするのとは訳が違う。人が残酷に死んでいくんだぞ。俺達だって生きて帰って来れるかどうか、分からない。」

「たとえ大きな魔法を使えたとしても、ニャンコみたいな子は残酷な戦場では心が壊れてしまうでしょう。お願いですから安全な場所にいてくれませんか……?」

ライオットとサミュエルの言葉に私はぐっと言葉を飲み込んだ。
確かにそうだ。悲惨な戦場なんて見た事ない。
私はチート能力を貰ったけど、そういうのには慣れていない。

けれど。

スカーレットさん達にティリオンは黙って成り行きを見守っていた。
私はそろそろ潮時か、と思う。

「確かにわたちはザンコクな戦争を知らないにゃ。ザンコクさに心が壊れてしまうかも知れないにゃ。でも――」

私は言葉を切った。
心臓がドクリ、と跳ねる。

「わたちは……わたちは皆がいなくなっちゃうのがもっとイヤにゃ!皆と一緒に居て、色々なところをボウケンしたりしたいのにゃ!どうせいつか死ぬんなら、皆と一緒がいいにゃっ!保護区の時のように一人ぼっちで置いてかれるのはもうイヤにゃ!だまってたけど、わたちは…ホントウはすごいチカラがあるのにゃっ!あの世界樹の地下洞窟にいたドラゴンのジュゲムだって、わたちとシュジュウケイヤクしているのにゃっ!」

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