2015年5月10日日曜日

71にゃん

クマルと別れて数日。

私達は大草原の真っ只中を、大河トーネの支流と思われる川伝いに歩いていた。
見かける魔物はどれもこれも、A級やS級の恐ろしいものばかりだそうだ。
それらは基本襲ってこないが、ライオット達は自分達の気配をなるべく消して刺激しないように進んでいる。

「――この草原の魔物は人間を見慣れていないおかげか、襲って来ないから助かったわ。」

川でスィルが射った鳥を処理しながら言った。
スィルの上流側で、マリーシャがクマルに教えてもらって採取した香草を洗いながらそうですねと相槌を打つ。

「人間を気味悪いものと思っているのかも知れませんね。そう思われている内に草原を抜けてしまいたいものですが……」

彼女らの会話を聞いていたライオットが手を目の上にかざし、未だ遠い大雪山を見て嘆息する。

「せめて、馬がいればなぁ……」

「しかし不思議なものですね。グンマ―ルに入ってから、力が増していると思いませんか?先程火を灯す術を使ったのですが、思ったより大きく出たのですよ。私が加減を間違えたのかと思いましたが、先ほど試し打ちをしてみたら、いつもより確かに強くなっていました。気のせいではなかったようです。」

サミュエルの言葉に、ティリオンが「お前もか…」と目を見開く。

「俺もいつもより疲れにくい気がしている――グンマ―ルの住人の強さの秘密は土地にあるのではと思うのだが。」

「ええ、私も同じことを考えていました。興味深いですね。ところで地の精霊はどうでしょうか。」

サミュエルの問いに、ティリオンは宙を見つめる。
力が使えるかどうか探っているようだ。

「ン……少しは使えるかも知れない。」

「それって、森を離れたからか?」

少し表情を明るくしたライオットにティリオンは首を振る。

「分からない。だが、森に居た頃よりマシになってる。」

「なら、このまま進んで行けばまた使えるようになって一足飛びに行けるかも知れないな!」

楽観的な言葉にダークエルフは大雪山を見つめた。

「……だといいが。」

薪が組まれ、料理の準備が行われた後、ライオットはスィルにも精霊術が使えるかどうか確認しに行った。
どうでも良いが、クスァーツを出てから何日も経つのに誰もヒュペルト様の事に触れようとしないのは何故なのか。
その事実に戦慄しながら、私も鈴に語り掛けてみる。
精霊王達は石を通じて飛び出してみて、状態を確認し、教えてくれた。
精霊石って便利だな。ただ、全てを飛び越えて移動出来るのは精霊のみらしいというのが唯一の難点だ。

"大分マシになったわー!森でないから、魔素が分散されるみたいよー。"

"ちょっとは楽になりましたですじゃー。"

"もう少し楽になれば転移も使えそうですわよ。"

"俺が転移使えりゃーなぁ。まぁスカーレットは迎えを寄越すって言ってるからちゃんと迎えてもらった方が良いだろうよ。"
あの森が一番魔素が濃い場所ってことか。で、離れれば離れる程また魔素が薄くなっていくと。
精霊達を心配していたが、外に出れるくらいにまで環境が変化したのは喜ばしい事だと思う。

と。

首の後ろがチリチリする。
誰かに見られている気がして、私はそちらを見つめた。
良く見えなかったので、鷹の目の能力を使えるように呪文を唱える。
すると、草原に点在する灌木や茂みを縫うようにして、かつて見た魔物――魔狼が群れをなしてゆっくりとこちらに歩いて来るのが見えた。

"ニャンコ。先頭に居るあれ、以前ニャンコが食中毒にした魔狼よー。"

「にゃっ!?」

えええ、マジで!?
衝撃の再会――てか、全部同じに見えるんだけど!
シルフィード、よく個体識別出来るよね!


***


魔狼のボスは逡巡していた。
あれは、間違いなく自分を襲ったダークエルフである。傍には襲うように仕向けられた人間の女も居た。

遠目に見た瞬間、記憶がフラッシュバックする。
激昂のあまり一気に襲い掛かろうとしたのだが――近づくにつれ、襲う気が無くなっていくのに気付いた。
その事に戸惑いを覚える。何故なのだろうか。
ナンバーツーに確認すると、同じように戦意を失ってきている、との事である。

――いや、もしかしたら。
自分にそうさせるような変な力が働いているのかも知れない。

魔狼のボスはそう判断すると、襲う気を無くしていく心を叱咤しながら群れに号令を下した。
とりあえず近くまで行く。多勢に無勢、奴らは逃げられないだろう。

逃がすまいとダークエルフに視線を向け続けていると、白い小さな生き物がこちらを真直ぐ見つめていた。

まさか、自分達の存在に気付いているのか?
こんなに遠く離れていて、ダークエルフや人間達は気付いていないようなのに?

その時、魔狼のボスはその白い生き物に無意識下で恐れを覚えた。




*おまけ*
 
一方、クスァーツでは――

「だ~か~ら~、あいつらが行ったって方向に連れてって欲しいんだけど~!」

あれからヒュペルト様は何とか酋長からニャンコ達が行った方向を聞き出していた。
しかし一人で行くのは森の魔物に瞬殺されてしまう。
魔蛇に襲われかけた時の事を思い出し、ぶるりと身を震わせた。
何とかレアズに連れて行って貰わないと、と村の外れに作業に向かう彼女に付き纏っている。

「ダメ、ゼッタイ。ヒュペルト、レアズノムコ。」

しかしレアズはヒュペルト様を大事に思うあまり同意してくれない。

「レアズは僕の妻なんだろ~?なら、僕に従うべきじゃないのかい~?」

ヒュペルト様は食い下がる。何せ、父に言われているのだ。
あのケット・シー、ニャンコを殺して鈴を奪えば神や精霊を従えられ、王国ばかりか世界をも征服出来ると!
そしたら自分は世界中の美女を侍らすのである。
その野望をこんなところで潰えさせる訳には――

――ズパンッ!
メリメリメリ…ドスーン!

ヒュペルト様は目の前で起きた現象に目を疑った。
レアズが、手刀で、目にも止まらぬ速さで、大木をへし折ったのである!

「ヒュペルト、キコエナイ、ナニカイッタカ?」

「……ナ、ナンデモナイサ~。」

思わず片言発音になったヒュペルト様。
妻だと甘い言葉を吐き、レアズを従えさせ利用するのが相当危険な事だと今更ながらに気付いたのである!

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