2015年4月24日金曜日

3にゃん

鋭く冷たい声で叫ばれて、覚悟を決めるしかないと思った。
震えながら恐る恐る顔を出すと、冒険者達は全員臨戦態勢に入っていたが、私を見た瞬間一様にあれっ?とした表情になる。
そりゃそうだろう。
出てきたのが化け物でも曲者でもなく、かわいらしい外見のにゃんこだったのだから。
通訳魔法効くかな?
自分の言葉が相手に伝わるように意識することを忘れないようにして、私はとりあえず両手で頭を抱えて謝る事にした。

「ごっ、ごめんなさいにゃー…」

耳がへにょり、となっている。
覚悟を決めたとは言え、恐怖に思わず涙腺が決壊しそうになった。
これから私、この人たちにどうされるんだろう?
ぷるぷる震える私をよそに、冒険者達は構えを解いた。
ということは、私は少なくともこの世界では害のある生物と認識されてはいないのだろう。

「っ…な、何だ、この生き物…。」

「ケット・シー?」

剣士のお兄さんが戸惑いを見せると、神官っぽいお姉さんが呟いた。
どうやら私はケット・シーという種族であるようだ。

「ケット・シーって希少種族の、あの?」

剣士のお兄さんが神官っぽいお姉さんを見る。彼女は頷いた。
えっ、希少種族?私、珍しいの?
魔術師が物珍しそうにこちらに顔を向けたようだった。
あっ、フードを取った。
茶色の髪と瞳、柔和な優男って感じで凄いイケメン。
女性に騒がれるからフードしてたのかも知れない。

「これがケット・シーですか。初めて見ます。」

感心したように言うイケメンお兄さんにエルフの人が弓を下ろした。
他の面々もバラバラと構えを解く。

「500年前ならまだ少し珍しいぐらいだったんだけれどね。元々数はそこまで多くなかったし力の無い弱い種族なの。それにこの外見でしょう?愛玩用に狩られたり戦争の巻き添えになったりして数を減らして…ケット・シーは世界に数えるほどしかいないわ。それも、神殿や国の厳重に管理された区域で手厚い保護を受けてやっと生きている。」

「私は神殿巫女時代、王都サーディアの大神殿に設けられた保護区で見たことがあります。保護されていないケット・シーがまだ居たなんて…。」

「怖いにゃー…怖いにゃー…」

プルプル震えてそんな事を言いながら、エルフの人と神官っぽいお姉さんの説明を聞く。
さて、これからどうやって取り入ろうか。

「わたちは悪い人達からイノチカラガラ逃げてきてマイゴになったのにゃ。あにゃた達もわたちを捕まえてひどい目に遭わせようとしてるのかにゃ?」

涙目で彼らを見つめると、彼らはあわあわとしだした。
いち早く対応を考えたのは神官っぽいお姉さんだったようだ。

「まあ、可哀想に…。」

言って、こちらに足を踏み出した。

「マリーシャ殿!」

それでも一応警戒したのか魔術師が声を上げた。
マリーシャと呼ばれたお姉さんはそれを手で制すると、ゆっくりと静かに近寄って来てくれていた。
数歩離れたところで立ち止まると、彼女はしゃがんでこちらに目線を合わせてくれる。
じっと見ると、慈愛に満ちたまなざし――この人は危害を加えては来ないだろう、と思えた。
そっと、こちらも恐る恐る歩み寄ってみる。

「大丈夫、私達はあなたに危害を加えたりしません。怖い思いをさせましたね…。」

こちらを脅かさないように配慮して伸ばされた手。
触れられた瞬間は流石にビクッとしたけれども。
優しく撫でられて、緊張が瓦解したのかとうとう決壊し、涙がぼろぼろとこぼれた。
チートの能力を貰っても、世界に一人きりで違う姿で放り出されて。
私は自分でも思うよりも心細くてぬくもりと安心を求めていたのかもしれない。
マリーシャさんは抱き上げてぎゅっとしてくれる。
彼女の腕の中は幼かった頃の母を思い出す。
おっぱいでかい、うらやましいけしからん。

「それにしても何で私達をじっと見ていたんだ?」

涙で分からないが多分魔術師の声。

「ふにゃああーん、誰か助けてくれる優しい人はいにゃいかにゃって見てただけなのにゃー、しょれなのに、しょれなのにー。」

ただ見てただけなのに弓を射掛けられた恨みは晴らさせてもらう。
可愛い生き物を泣かせた罪悪感に苛まれるがよい!と涙でぼろぼろの顔を向けると、エルフは喉に何かが詰まったような表情になった。

「悪かったわ、ごめんなさい。弓を射掛けたりして。」

確かに命の危険と隣り合わせの冒険者にとっては不審な視線は警戒の対象だろうし、あれは不可抗力だったろうから仕方ない。
ちゃんと謝ってくれたから許そう。

それに、結果オーライだったのだから。

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