2015年4月24日金曜日

7にゃん

ご飯はパンとシチューだった。
前世のシチューより味そのものはやはり劣るが、素朴な味わいでどこか懐かしくとっても美味しかった。
お腹が膨れたところでおかみさんにお礼を言って部屋に戻る。
部屋でくつろぐ間もなく、ギルドに出かけていた面々もちょうどがやがやと戻ってきたようだ。

「じゃん、これどうかしら?ニャンコの服を探してきたんだけどね!」

開口一番、スィルが得意げに取り出してみせる。
それは、茶系を基調としたちょうちん袖の何故かフリルが付きまくってるワンピースとかぼちゃパンツのようなものの一揃えだった。

「さあニャンコ、着てみて!」

言われるがままに着てみると、ワンピースの裾からはパンツの下がちらりと見える幼児仕様である。
かぼちゃパンツのほうはエプロンのように後ろの紐で締めるようになっていて、獣人であっても大丈夫なように紐のところにあわせがあって、尻尾を出せる構造になっていた。
じっとスィルを見上げると、破顔一笑。
クールな女性と思いきや、そこに浮かべられた陽だまりのような笑みに私は見とれた。

「っ…これはなかなか破壊力があるわね。」

破壊力のあるのはむしろあなたのほうですが。

「服選びに時間をかけた甲斐があったな、スィル。」

だいぶ待たされたんだぞ、とライオット。

「本当は赤が良かったんだけど…。」

着ている茶色を赤に脳内で変換してみる。なるほど、赤のほうが確かに可愛いかも。
スィルの言う通り赤のほうが…と思いかけていると、

「この色でも十分愛らしいじゃないですか。第一、かわいい以前にニャンコが危険に晒されないような目立たぬ服だという事実が大切なんです。この色だと風景に溶け込みやすく目立ちませんから。」

とサミュエル。自分の考えが浅かった事を悟る。

「ライオットしゃん、スィルしゃん、サミュエルしゃん…お洋服を買ってきてくれてありがとうにゃ。マリーシャしゃんもごはんに付き添ってくれてありがとうにゃ。ごはん、美味しかったにゃ。」

旅のこと、目立ちにくい色…色々考えて、会ったばかりの自分のためにこの服を買ってきてくれたんだと思うと心が温まってじーんときた。
お洋服ももちろんだけど、ごはん代もきっとみんなの共同資金から出してもらっているだろうからみんな揃ってからお礼を言おうと思ってたんだ。
私が感謝を述べると、皆どういたしまして、と微笑んでいる。
雰囲気が和やかになり一段落したところで、マリーシャが切り出した。

「ニャンコはこれで良しとして。それでは、討伐の打ち合わせをしましょうか―-ギルドは何と?」

「昨日新たな目撃情報があったそうだ。大フォレストワームは泉の方向に向かっているのを見たと。大方その泉に巣を作ろうとしているんだろう。」

ライオットはなにやら羊皮紙らしきものを広げている。見ると、コネコ村近辺の簡略な地図だった。
森林を貫く道の上に赤い印が打ってあり、地図の端に描かれた泉に矢印が伸びていた。

「泉の場所は聞いたけど、街道沿いじゃないから森林道になるわ。フォレストワームが全てをなぎ倒して行った後だから草木を掻き分け掻き分け進むような事はあまりないと思うけど、それなりの装備をしないと。毒虫もいるから肌の露出はしない方が良いわね。」

神官・魔術師の後衛組には村長さんが装備を貸してくれることになった、とスィルは続ける。後で届くそうだ。

「目撃者の樵の男性が泉まで案内してくださるそうですよ。」

「図体の大きい魔物だし、すぐ見つかるだろ。」

明日朝早く行きましょう、とサミュエル。
ライオットは「後は行ってさっさと倒せば問題ない」と呟いて剣の手入れを始めていた。
めいめいも明日の準備に動こうとした時、

「問題は討伐している間、ニャンコをどうするかですよね。」

サミュエルの投じた一石。
全員動きを止めて、一様に考え込んだ。

「そうだったわ…でも、ニャンコを一人きりでこの宿に置いておくしかない、わよね。まさか連れて行く訳にもいかないし。」

心配そうなスィルの視線。
マリーシャがしゃがみこんで視線を合わせてきた。

「…ニャンコ、私達が討伐に行っている間、一人でお留守番出来ますか?」

「にゃっ!?一人でお留守番なのかにゃ?………うーん、出来ると思うにゃー…。」

流石にここまで良くして貰っておきながら、討伐に足手まといとしてついていくのも気の毒だよね。
それに話を聞く限り、不可抗力とはいえ自分がもう解決してしまったと思われる仕事だから気まずくて同行したくないというのもある。
それでも一人取り残されるんだという寂しさに語尾が小さく弱弱しくなるのは否めない。

「早く討伐を終えるために効率良くいきましょうか。森の探索は身軽なエルフの得意分野。私が先行して斥候として大フォレストワームを探しに行くわ。見つけたら印を付けて戻ってくるから、それから行けば皆で広大な森をあちこち探して回るよりは早いでしょ。その方がニャンコも安心だろうし。」

大フォレストワームの痕跡を見つけるのは簡単だしね、とスィルは言う。
早まった問題に、私は少し焦りを覚えだした。
倒されている大フォレストワームの死骸は遅かれ早かれこの人達は見つけるだろう。
見つけた後、どうするんだろうか?
私、疑われたりしないんだろうか?
どうしよう、知らない振りしても、もしも精霊魔法とかで自分がやったってバレたら。
誤魔化し方を全然考えてないんだけど。
そんな私の内心は、エルフにとっては心配そうな目に見えたらしい。彼女は「大丈夫よ、」とかっこいい笑みを浮かべた。
エルフという種族は森の中をすり抜けるように駆け抜ける事に長けていて、更に強化魔法を使っているのですぐに戻ってこれるのよ、と言う。いえ、あなたの実力は疑ってないんですが。
私がまごまごしている間に、彼女は夕方まで時間はあるし日が落ちる前には見てこれると思うから、と疾風のように出て行った。

「『ワタスィホスィデスアスィハヤクナルノコト』」と強化魔法をかけて。

うーん、微妙だ。
いやそんなことはどうでもいい――ああ、どうしよう。


***


血相を変えたエルフが戻ってきたのはそれから2時間後の事だった。
泉までかなり距離があっただろうに、流石はエルフ、仕事が速い。

「大変よライオット!!――大フォレストワームが何者かによって倒されてるわ!」

「なんだって!?」

皆に衝撃が走る。

「詳しく、スィル。」

サミュエルが水を渡すと、スィルはそれを一気にあおって息を吐いた。

「大フォレストワームの痕跡は目撃証言のあったあたりを探したらすぐに見つかったわ。それを辿っていくといきなり視界が開けて、泉の傍で死んでいるのが見えたの。しかも、何者かによって真っ二つにされてた。周囲の木々も同じ高さの切り口で、鋭利な刃物で切られたようになぎ倒されていたわ。きっと恐ろしい威力を持った風の魔術ね。それも遺失魔法の可能性が高い。既存の風魔法にはあんなに大きく広範囲に全てが切り裂かれるような光景を生み出すものはないもの。」

一瞬、沈黙が室内を支配した。
ニャンコを除く皆は一様に考えているのだ。何者の仕業なのかと。
すみません、それ、遺失魔法じゃなくて気の方です…と考えながら私は表向き神妙な表情を取り繕った。
ライオットが沈黙を破る。

「――何者が倒したにせよ、討伐対象が死んでる以上俺達は用無しだな。」

「いえ、そうとも言えません。この辺りの魔物にはそのような高度な風魔法を行使するようなものは存在しないはずなのですから。人、それでなければ、魔族か。大フォレストワームを一つの魔法でいとも簡単に死に至らしめる、そんな存在がこの森に潜んでいるかもしれないのです。」

サミュエルの分析に、話がどんどん大きくなっていっている。
どうしよう、自分がやったってバレたら。
ガクガクと挙動不審になった私を、背後から誰かが強く抱きしめてくれた感触がした。

「大丈夫ですよ、ニャンコ。私達がいる限りニャンコを守ってあげますからね。」

菩薩のようなマリーシャの声。皆の視線が一気にこちらに突き刺さる。
スィルの目が氷柱のように冷たく鋭くなった。

「ニャンコ?――まさか。」

あああああ、もしかしなくてもバレた!!!?マリーシャに抱きしめられてるから逃げられない!
私はギュッと目を閉じた。

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