2015年4月30日木曜日

62にゃん

エアルベスさんも落ち着いた頃、王様がやってきた。
実にすっきりした顔をしている気がする。ちなみにギュンター公爵は居ない。
そのせいか、先ほどよりはずっと和やかな雰囲気で続き再開となった。

「魔王スカーレットか。ニャンコ=コネコを差し出せ、さもなくば戦争だと――しかし、差し出せば我が国にとって大きな損失となる、それが問題か。」

イシュラエア王は肘をテーブルについて手を組んだ。
しばらく考えていたようだったが、こちらに視線を投げる。

「――ニャンコ=コネコよ。そなたはどうしたい?」

「わたち、センソウを止めるためにも行くにゃ!そもそも、ドラゴンしゃんをカイホウしたのはエアルベスしゃんじゃなくてわたちなのにゃ。」

私の爆弾発言に、イシュラエア王は目を見開く。

「何、それは真実か!?」

「わたちは水の精霊石を持ってるから、水の精霊に頼んだのにゃ。ドラゴンしゃんは悪い事に使われようとしていたし、かわいそうだからカイホウしてあげたのにゃ。エアルベスしゃんは何も悪くないにゃ。だから、オウシャマはバツとしてわたちを魔王領へ行かせてちょーらいにゃっ!」

「――ニャンコ、何を言うのです!?」

そこまで言うと、エアルベスさんが口を挟む。
しかし、これだけは譲れない。

「エアルベスしゃん、エアルベスしゃんはケット・シー達になくてはならない存在にゃ。ギュンターコウシャクのこともあるにゃ。オウシャマがわたちをマゾクのところへ行かせれば、エアルベスしゃんもイシュラエア王国も助かるし、すべて収まるにゃっ――!!!?」

次の瞬間、私はエアルベスさんに強く抱きしめられていた。

「ニャンコ、そんなのダメです!私の犠牲になるなんて……」

「――エアルベスしゃん、ダイジョウブにゃ!神しゃまや精霊達も助けてくれるし、わたちもそこまで弱くないにゃ!」

「けれど…」

「ニャンコ=コネコよ。そうすれば確かにエアルベスも無実となり、我が国も魔族との戦を避けられるが――何より、お前自身が犠牲になる事になる。本当にそれで良いのか?」

私は決意を込めた瞳で無言で頷く。犠牲になるつもりなんてさらさらないけど。
慌てたのは教皇と最高司祭だ。
「ニャンコ様、この国とニャンコ様は無関係ではありませんか!何故…」とか、「陛下、ニャンコを差し出し魔族に屈するおつもりですか!?」とか言い募っている。

その時。

"――すべてはニャンコの意志のままに。"

"ニャンコの心の赴くままに――邪魔してはならぬ。"

声なき声が、響いた。
耳に音として聞こえる訳ではないが、心に他人の声が直接浮かび上がるような、そんな不思議な感じである。

「闇の神アンシェラ様…」

「光の神イーラよ…」

クリステルとヴォードは愕然と呟き、それぞれの祈りの作法と構えで祈りだす。
その場にいる全員その声は聞こえたようで、皆が神に祈り始めた。

「おお、光の神イーラよ!これが神の奇跡というものか。これまで余はどこかで神の存在を信じ切れていなかったが、それは全くの不徳の至りであった!よもやお声まで拝する事が出来ようとは。ニャンコが魔族領へ向かうのは、神々の御意志・お導き――ならば、余を含め人たる者がそれを捻じ曲げる訳にもいくまい!」

祈り終わっても、王様は感無量と言った感じである。
立ち上がって私の目の前に来ると、何と跪いて私の両手を取った――しかし傍目には厳ついおじさんにお手をして戯れている猫なんだろうな。

「ニャンコ=コネコ――神々に愛されし奇跡のケット・シーよ。余はそなたが魔族領へ行くのを止めはせぬ。だが、王として神の御子を身一つで向かわせる訳にもいかぬ――誰か屈強な者を護衛として付けよう。」

「にゃっ、別に――」

要らない、と続けようとすると。
ライオットがザッと王の横で片膝をついた騎士の礼を取る。

「――恐れながら!ニャンコ=コネコを守り、魔族領に連れていく役目、このライオット=コルトにお任せ下さい!」



***




私の魔族領行きの護衛を買って出たライオット。その後ろにサミュエル、スィル、マリーシャが膝を折る。
王様は目を見開いた。

「何と、そなたコルト騎士爵家の者だったか!身分こそは騎士爵だが、それは功績を立てても更なる立身出世は望まぬというコルト家の美徳でもある。サーガに謡われし世界樹の精霊騎士もまた、コルト家の者であった。そなたの兄も含め、建国以来続いてきた我がイシュラエア王国の忠臣であると記憶している。」

「有難きお言葉――私は、残念ながら三男にて家督を継げず、今はしがない冒険者に身をやつしております。ニャンコ=コネコを保護し、ケット・シー保護区まで連れてきたのは私以下、サミュエル=シード、スィル=イシュランドール、マリーシャ=メドセナで御座います。保護せしニャンコ=コネコが魔王の下へ行くのが避けられぬなら、せめて行く末だけでも見届けたいと皆思っております。どうか、ニャンコ=コネコの魔族領行きの護衛を我ら四人にお命じ下さい!」

ライオットの言葉に四人は一斉に頭を下げた。
私は皆の優しさに不覚にもうるっと来る。
王様が私を見つめた。

「ニャンコよ、そなたの意志を問おう。彼らの護衛を望むか?」

聞かれ、私はぶんぶんと頷く。
否やはない。寧ろこちらから是非お願いしたいところだ。

「にゃっ――望むにゃ!みんなが一緒なら寂しくないにゃ!ありがとうにゃっ!」

「ニャンコ様。このティリオンもお連れ下さい。彼らと面識もありますし、きっとニャンコ様のお役に立つでしょう。」

王国側に負けじと教皇クリステルがティリオンを捻じ込んでくる。
結局、私を含めて総勢六名で魔族領へ向かう事となった。

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