2015年4月24日金曜日

33にゃん

私達は惜しまれながらもリュネの街を後にして――数時間も経たぬ内に、このクラウロアの街の入り口にいる。
というのも、今回の件でリュネの領主に当たる貴族が褒美を出してくれるとの事だったので、その貴族の居るクラウロアに寄り道をする事になったからである。

ちなみに現在ティリオンはいない。
彼は私達を地の精霊術で一旦領主の居る街の近くに送った後、一旦別行動である。
教皇に顛末を報告してから合流する予定だそうだ。

「にゃー、落ち着くにゃー。」

街に入る手続きを待っている間、私はルンルン気分で木箱の中に入っていた。
なんというか、箱を見ると無性に入りたくなったのだ。
丁度サイズ的にも私一人入れるぐらいの箱。

出発前、手伝う事もあまり無かったし、冒険者達が準備しているのを尻目に手持ち無沙汰でぶらぶらしていると――食堂の隅にひっそりと置かれたその箱を見つけたのである。

出たり入ったりして遊んでいると、ライオット達がなんと箱を宿の主人から貰ってくれて吃驚した。
しかも中に藁を敷いてくれて、その上からシーツも被せてくれた。
即席の私専用のベッド、という訳だ。
ついでに窓をつけてやろうとライオットがノコギリを借りてきて、箱の側面を丸く切り取ってくれた。
そこからひょい、と顔を出す。

「いいお家が出来て良かったわね、ニャンコ。」

スィルの笑顔に元気良くにゃっと返事をする。
顔を引っ込めて手を振った。クスクスと笑う女性陣。
手を振ったり尻尾を見せたりして遊んでいたが、それにも飽きてコロンと寝転がっていると、急に静かになる。
板の向こうを引っかくような音が聞こえてきた。

何してるの?

不思議に思って窓から顔を出すと、ライオットが黒いクレヨンのようなものを持っていた。
皆、何かを我慢するように変な表情でプルプルと震えている。

「にゃー?」

首を傾げると、堪えきれなくなったのか、全員ドッと笑い転げた。
精霊達まで勢ぞろいだ。スィルに至っては腹を抱えている。
異常を感じて箱の外に出ると、何とそこには窓を顔と見立てた落書きが!
体はご丁寧に鎧を着ていて剣を振りかざし、馬に乗っているように描かれている。
ムカつく位に上手な絵――

「に゛ゃああああ―――っ!!?」

ハメられた!ハメ看板にされていた!

「どうだ、勇者ニャンコ様だーっ!ハハハハハッ!」

おのれ、ライオット!

ライオットと猫ぱんちの攻防を繰り広げていると、スィルが涙を拭いながら起き上がった。

「あー、楽しかった!ニャンコと一緒に居られるのも、もう後数日ぐらいかしら――寂しくなるわ。」


え…?


寂しそうに言う彼女に、ガン!と頭を殴られたような衝撃が走った。
そうか――ティリオンが再び合流してきたら。
地の精霊術で難なくケット・シー保護区まで行けてしまうのだ。

ピン、と張っていた尻尾が、しゅんと垂れ下がるのを感じた。
箱で遊んで上がっていたテンションも急降下だ。
悲しみがじわじわと心に満ちてきて、張り裂けそうになる。

きっと、お別れが近いから。
彼らはお荷物になる要らない箱をわざわざ貰って、加工までしてくれたのだろう――私が、気に入っていたから。

「そうだ、ニャンコ。今から市場を回ろう!買い物、した事なかったろう?お小遣いもたっぷりやるからニャンコの好きなものを買ってみような!」

下を向いて涙を堪える私に、ライオットが明るい調子で言った。

「そうでした、夜になったら領主様が子供達を助けたお礼におおご馳走で歓迎してくれるそうですよ!」

「一緒にいた時間は短かったですが、最後に思い出作りをしましょう――ニャンコ?」

何とか私を元気付けようとしてくれるサミュエル。
心配そうにこちらを伺うマリーシャ。

"あたしたちは風あるところいつでもどこでもいるけどねー!"

"わしらも地ある限りおりますですじゃー!"

…空気読め、精霊達。
でも、お陰で涙は少し引っ込んだ。

「…わかったにゃっ!」

私は何とか悲しみを押し込めると、明るい顔を作って空元気を出した。
別れの時は、こうしている間にも確実に近づいていた。

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