2015年4月25日土曜日

56にゃん

サラマンダーよ、ドラゴンと私の体格差はかなりあるんだけど!
何より――

「近づいたらドラゴンしゃんにがぷってされないかにゃ?」

"ニャンコ、ドラゴンは気高い種族だから大丈夫だ。"

"そんな事はせぬ――好んで喰らうのは魔素を豊富に含んだ岩石や魔獣ばかりだ。"

私はそこまで言うなら、とそろりと水に入った。
水が腰まで来る。それなりに深い。

"歩くのは時間がかかるでしょうから、運んであげますわ。"

ざざー。

水が私の足を持ち上げる。
ウンディーネの力なのか、水に接触しているのに濡れている感じが余りしない。
私は水の上を滑るようにしてドラゴンの近くへ運ばれた。

で、でかい…!
間近で見るドラゴンはマジでかい!

プルプルしている私をよそに、サラマンダーが両掌をドラゴンに向けて火炎放射する。

"ああ…なんと気持ちの良い炎と魔素だ……体に染み渡る……!"

寒い中で凍えた人が温泉を見つけて入ったら、きっとこんな言葉が出るのだろうか。
ドラゴンは気持ちよさそうに目を細めた。
その穏やかな様子に怖いと思う気持ちが薄れてくる。

すっかり元気になったドラゴンはこちらをじっと見つめた。

"我が名はアラグノール――お前の名は?"

"おい、お前――"

"ドラゴン、何を考えていますの!?ニャンコ、名乗り返してはダメですわ!契約が結ばれてしまいます――"

「ニャンコ=コネコにゃっ!」

"――わ?あら……?"

しーん。

サラマンダーやウンディーネが慌てて何かを言っていたようだが、何も起こらない。

"おかしいのじゃ、ドラゴンは真名を取り交わす事で契りを交わすのじゃー?"

ノームが首を傾げる。
サラマンダーが呆れたように言った。

"つーか、そんな名前じゃなかったよな、お前。"

"もしかして偽名なのですじゃー?"

偽名、の単語にドラゴンは決まり悪そうに俯いた。

"偽名ゆえ、自己紹介は問題ないだろう……真名はちと、差し障りがあってな。"

「差し障りって何かにゃー?」

"ああ、お前の名前ってさ、確か――"

"アラグノール!猛き炎のアラグノールだサラマンダーよ!"

サラマンダーがその名前を暴露しようとした矢先、ドラゴンは慌てて遮った。
あくまでもアラグノール!と言い張っている。声が半泣きに聞こえるのは気のせいだろうか。
本名はそんなに嫌な名前なのだろうか?

"…確かにあまり聞かない名前だけどよ。"

ドラゴンは項垂れ、翼で顔を覆っておいおいと嘆きだす。

"双子の弟達はドラゴンだから丁度よいと『ドラウエモン』『ドラザエモン』と名付けられ、五番目の弟に至っては『ゴロウザ』…我に名付けた今は亡き真祖竜ひいおばあさまのセンスは壊滅的でっ、みょうちきりんな名ばかりを選ぶのだ!!
長男の我はそれよりもっとヒドい!我の幸福を願って名付けられたのだと親は言うが、今まで一人たりとも全称で我を呼べたものは居ないのだからな!"

"だからって折角名付けてもらった名前を否定するこたぁないじゃないか!お前の幸せを願って付けられたって聞いたぞ、ジュゲムなんたら!"

"お前も我の名前を言えぬ癖に説教をするつもりかああああ!"

こ、これは。
何故かドラゴンが挙げた弟達の名前は古式ゆかしき和風…!
ジュゲム…という事は、これってまさか。

「にゃっ!?

『ジュゲムジュゲムゴコウノスリキレ
カイジャリスイギョノスイギョウマツ
ウンライマツフウライマツ
クウネルトコロニスムトコロ
ヤブラコウジノブラコウジ
パイポパイポパイポノシューリンガン
シューリンガンノグーリンダイ
グーリンダイノポンポコピーノポンポコナーノ
チョウキュウメイノチョウスケ』

が、ドラゴンしゃんの名前なのかにゃ?」

日本人なら反応せずにはいられない。
条件反射で歌うように言うと、ドラゴンも精霊もかぱーんと口を開けた。

"ひ、真祖竜ひいおばあさまと同じセンスの持ち主が、ここに居たとは……"

"合ってる……しかも全て正確に言い切りやがった、すげぇ!"

やっぱりか。
もしかしてそのひいおばあさま…真祖竜は前世持ちで更に日本人だったりするのかも知れない。生きていたら会ってみたかったなぁ。

"というか、これで契約が交わされてしまいましたですじゃー。"


――あ。


一同呆然としていると、そこへシルフィードが戻ってきた。

"ニャンコ―、そろそろ戻った方がいいみたいー!愛し子が探してるわー。"

私ははっと我に返る。

「その契約って何なのにゃ?」

"ドラゴンは真実の名を呼び合う事で他人と契約しますの。真名は血族同士では絆を深めるためのもの、血族ではない異性のドラゴン同士では結婚の儀式ですけれど、異種族相手では使役の儀式ですわね。魔力が少ない方が多い方に服従する、という契約ですわ。"

ウンディーネの言葉に、確かに先程とは違う変化を感じる――ん?

"我が…この我が魔力量に於いてケット・シーに負けるとはっ!!!何なのだ、その出鱈目な魔力量は!我の魔力が万全な状態であっても勝てぬではないか!"

ドラゴンのジュゲム(以下略)は天を仰いでガッデム状態で嘆息していた。
少し危なかったかも知れない。
私の魔力量、ジュゲムより多くて、良かった…。

"あら…こちらの愛し子も私を呼んでいますわ。帰りましょうか。"

ウンディーネが水の転移術で大きな渦の入り口を作る。
と、水底に綺麗な宝石があちこちに落ちているのを見つけて、手を伸ばして一つ拾ってみた。
青いそれは周囲の淡い光を反射し、キラキラと虹色に光っている。

「にゃー、綺麗なホウセキだにゃー。」

他にもある。
幾つかお土産に持っていこうかなぁ。

"ニャンコー、それドラゴンのうんちよー!"

ぎにゃっ!

私は0.3秒でその石を放り捨てた。

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