2015年4月24日金曜日

30にゃん

――この試練を乗り越えてみせよ。さらば新たな力が与えられん。

ニャンコが光の神の夢を見たというその日の晩に、マリーシャもまた、光の神の夢を見た。
これは、我が神に下された自分への試練――マリーシャはそう思う。

恐ろしい魔狼が襲って来た時。魔狼は子供達に襲い掛かる寸前、突然体調を悪くしたのか、魔狼は胃の中のものを吐き出した。
子供達を守る為に守護の結界を祈り続ける最中、仲間達が傷付き窮地に陥った時。
自分が自分ではなくなり――気がつくと、皆の傷が癒え、体力も回復していた。

そして、子供達を攫った主犯である闇の神の神官が攻撃して来た時。
あの瞬間、死を覚悟した。
だが、闇に包まれたかと思うと目の前には街の教会がそびえ立っていたのだ。

立て続けに起こる奇跡――おお、光の神イーラよ!

マリーシャは光の神への信仰と、その守護への確信をいよいよ強めた。
教会のシスターを叩き起こして子供達を任せ、自警団の詰め所へと走る。
丁度子供達の捜索をしていた事もあり、短時間で一団を仕立て上げ、崖山に向かう事が出来た。

火の玉が打ち上げられるのが見えた。きっとサミュエルだろう。
魔術師の無事に安堵しながら彼女は山の入り口へと再び辿りつく。

試練は、まだ終わっていない。


***


ティリオンが目の前でゼーハーと息を整えていた。
さっきから一体何なんだこいつは。

「お、お前……子供の癖になんという恐ろしい魔法を使うのだ。」

"愛し子、それは今更なのじゃー。"

ノーム、うるさい。私は頬をぷくっと膨らませた。

「そもそもティリオンが山賊達をけしかけてサミュエルしゃんを傷つけさせなければこんな事にはならなかったのにゃ。悪いのはわたちみたいな子供に恐ろしいオマジナイをさせたティリオンなのにゃ。」

"ん?それはおかしい理屈なのじゃー"

怒りは大分消沈して落ち着いたが、そもそもの原因はこいつである。
意趣返しも込めて、ブラック企業の洗脳の手口のような言い回しをもってさり気無くティリオンが悪いという方向に持っていってやった。
エルフは誇り高い種族――罪悪感を覚えさせれば交渉はこちらが有利に立てる。

「は?お、俺が悪いのか…?」

「そうに決まってるにゃ。話はそれだけかにゃ?わたちはこれからサミュエルしゃんを起こしてマリーシャしゃんと合流しなきゃいけないのにゃ。ジャマをするなら食中毒にゃ。」

"ぎゃー、愛し子ー!"

言って、ビッと一指しゆびを向けて威嚇する。ノームがムンクになった。
敵か味方かハッキリして欲しいと言うと、ダークエルフは慌てだした。

「山賊達にはお前を捕まえるようにとしか命令してない――ま、待て、謝罪するからその口を開かないでくれ!山賊をけしかけ魔術師を傷つけて悪かった、お前の大事な人間を軽んじる発言をして申し訳なかった!お前達が自警団に合流するのも助けるから、先ずは俺の話を聞いてくれ!」

"ああああ、詐欺じゃ…詐欺師がここにおるのじゃ…!"

はい、ティリオンの謝罪、頂きましたー。
正直、サミュエルの傷が治ってる事とかどう誤魔化そうか悩んでいたんだよね。
存分に利用させてもらおう。

「地の精霊王ノームが精霊石を与えた者を尊重せよ――それが地の精霊とダークエルフの間で交わされた旧き時代よりの盟約だ。」

ティリオンは語りだす。
そもそもノームがアンシェラ様に脅された形で貰ったものであり、更に闇の神の加護に追いやられて結晶化しただけですとは到底言えない雰囲気だ。

「そう言えば名乗っていなかったな。俺はティリオン=ギルミアース。」

「…ニャンコ=コネコにゃ。」

名乗られたからには礼儀を返さなくてはなるまい。

「俺はそもそも穏健派のスパイとしてロドリゲスを監視していた。奴に従うフリをして過激派の内情を調べて教皇に報告するのが俺の仕事だ。」

「それで、ティリオンは何を求めているのにゃ?」

オ゛アアアアア――――ッ!!

遠くから聞こえてくる穴を穿つような断末魔の叫び。
ティリオンは頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。

「……お前に着いていくつもりだ。闇の神の加護を受けているのならばどの道教皇はお前を監視するように命じるだろう。まして、地の精霊石を持っているのであれば、俺個人としてもお前がそれを持つのに相応しいかどうか見極めたいと思っている。」

"愛し子…これ以上わしらの心労を増やさんで欲しいのじゃー……"

ノームが疲れたようにぱったりと地に伏した。
えー、着いて来るのー?

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