2015年4月25日土曜日

55にゃん

「――皆さん、ニャンコを知りませんか?」

エアルベスは先日来たばかりのケット・シーを探していた。
つい先刻、最高司祭ヴォードより連れてくるようにと使いの神官が来たからだ。

部屋を訪ねたが居なかった。
ハチクロはニャンコの部屋の扉が開く音を聞いたらしい。
保護施設中を歩き回り、職員にも訊いて回った。
世界樹の畑の方に向かったと目撃証言があったので、畑に向かい職員に尋ねまわったがついぞ見つからなかった。
手の空いている職員達にニャンコ捜索を命じて食堂へ向かい、改めてケット・シー全員に尋ねる。

もう夕食の時間、ここに来るはずなのだが…。

エアルベスの視線にケット・シー達は皆口ぐちに知らないにゃと答えた。
誰一人知らないのはおかしい――エアルベスの背中に冷汗が流れる。

「夕食に来ないなんて……すれ違っているのかしら?それともどこかの穴か溝に落ちたりして身動き取れなくなっているとか…?」

ケット・シー達を一人ひとり見詰めながら、自問自答するような彼女の言葉。
ミミがビクッと震えたのに気付く。
ニャンコとの確執もあったことだし、エアルベスはミミが何か知っているようだと見て取って目を眇めた。

「ミミ――」

「お取込み中の所失礼します――先日ニャンコを保護した方々がニャンコの事で施設長に面会を申し込んでいます。」

「ニャンコではなく、私に面会ですか?」

「はい。お忙しいのは重々承知していますが、お時間を頂きたいと。」

――もしかしてニャンコは敷地内から脱走していたのかしら?

今は少しでも手がかりが欲しい。

「みなさん、ニャンコさんが居なくなりました。夕食の後で一緒に探してくれませんか?無事見つかったら明日のデザートはケーキにしましょう。」

ケット・シー達の歓声が上がる中、彼女は職員に向き直る。

「すぐに面会します。案内してください。」


***


「すみません、お忙しいところ。どうしてもお話しなければならない事がありまして。」

冒険者達はエアルベスがすぐ面会に応じてくれた運命に感謝した。
どう言ったものかと悩みながら言葉を探しながらサミュエルが切り出す。
しかし予想とは裏腹に、エアルベスの方が先に口を開いた。

「あの…ニャンコを街で見かけられたのではなかったのでしょうか?」

「ニャンコが街で?――どういうことでしょう。」

「あの、大変お恥ずかしいのですが、ニャンコが数刻前の農園作業終了後から行方知れずなのです。最高司祭様がニャンコを連れてくるようにとの事だったのですが、見つからず途方に暮れております。職員達とケット・シー達にも手分けして探すように言ってあるのですが……あなた方が来られたと聞いた時、もしや敷地から抜け出して街へ行っていたのでは、と思ったのです。」

エアルベスは顔に落胆の色を浮かべた。
手がかりもなく、捜索は振り出しに戻る。彼女は膝の上に乗せた手を握りしめた。
守るべき存在の行方不明――自分の管理不行き届きだ。
思いつめたようなエアルベスの様子にその場にいる全員が思う。
この女性はやはり善人――ドラゴンの件は共謀ではなく利用されているのだろう。
ライオットが申し出た。

「よろしければ俺達も捜索に協力しましょう。ここには風の精霊使いもいます。情報収集ならお手の物です。」

「ほ、本当ですか?ありがとうございます、助かります!私は水の精霊使いなのですが、恥ずかしながら農園の管理に力を割かれていて余裕がなかったのです。最悪の場合は農園に回す力を止めて捜索するしかないと思っていました。」

破顔して感謝の言葉を述べたエアルベス。
ライオットはスィルに合図を送る。

「風の精霊術でニャンコを探すわ――少し席を外すわね。」

水の精霊使いはエルフに深く頭を下げて見送った。
少し心が楽になったのか、穏やかな顔をしたエアルベス。
サミュエルは本題に入る事にした。

「エアルベスさん。実はある情報筋から知ったのですが……あなたは世界樹の畑の地下洞窟に生きたドラゴンを捕えているそうですね。」

エアルベスの目が驚きに見開いた。「何故、それを……」
絶句している彼女の前に、スカーレットが進み出た。

「初めまして。私はスカーレットと申します。ギュンター公爵の元で働いていました。時間がないので結論だけ言います。公爵はドラゴンを私利私欲の為に使おうとしています。それが失敗すれば罪はあなた一人に着せられるでしょう。」

「そんな、まさか。国家機密ですのでご内密にお願いしたいのですが、あれは王命だったのです。なのに私が罰せられるのでしょうか?」

「王命の命令書が、公爵の偽造であれば?」

「!!!」

「火属性のドラゴンは水の精霊に抑えさせているようですが、もし、何らかの理由で結界が消え失せたら?」

「……ドラゴンは、暴れだすかも知れません。」

追い打ちをかけるようなスカーレットの言葉。
エアルベスは沈黙の後、やっとのことで結論を絞り出した。

薄々は彼女も勘付いていた。
ケット・シー達を守っていく生活の中、見て見ぬふりをしようとしてきた。
しかし改めてそれを明らかな形で突きつけられ、自分の立場の危うさを自覚してしまった。
顔を青ざめさせたエアルベスは項垂れる――自分はどうなってもドラゴンを返さなければ。
何より、愛らしいケット・シー達を守らなければ。

のろのろと顔を上げ、エアルベスは立ち上がる。
そこへ、スィルが慌てて戻ってきた。

「ニャンコを見つけたわ、地下洞窟にドラゴンといるの!」

「流石だな、スィルの情報収集は仕事が早い――って、ド、ドラゴン!?何でそんな所にニャンコが居るんだ!?」

真っ先にエアルベスが外へ駆け出す。
ライオット達もそれに続いた。

「……でも、おかしなモノも見たのよね。人間の貴族のやる事って分からないわ…っと、いっけない!」

スィルは慌てて彼らの後を追った。

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