2015年4月24日金曜日

24にゃん

――ティリオン!魔狼に何を喰わせた!?

――こ、この山の魔物しか与えていない!おかしい、普通魔狼は食中毒など起こさないのだが……

魔狼が嘔吐している間、ロドリゲスとティリオンが仲違いを始めた。ティリオンは突然の魔狼の豹変に疑問を持っているようだった。

よし、魔狼はなんとかなった…という事にしておこう。
魔狼の直撃を受けたライオットを見ると、気絶から立ち直っていた。スィルに支えられるようにしてよろよろと立っている。
左腕がだらりとなって血にまみれている事からどうも折れているようだ。
だが、肝心の癒やし手のマリーシャも結界を張り続けた所為で疲弊している。

さて、どうする。

癒やす時間的猶予はある。ならば、補ってやれば良い。
良い考えが浮かんだ。今日の私は冴えている。

「『マリーシャの肉体を媒体とし、ライオット、サミュエル、スィル、マリーシャの四名を全回復させる』にゃ。」

マリーシャの目から光が消え、体が発光し始めた。

――マリーシャ殿!?

サミュエルの戸惑いの声。マリーシャはそれに構うことなくゆらりと立ち上がり、掌を天に向けるように両手を上に翳した。

――『ライオット=コルト、サミュエル=シード、スィル=イシュランドール、マリーシャ=メドセナが全回復する事を欲す。』

普段のマリーシャからは想像もつかないような平坦で無機質な声。
しかし流暢な呪文にほんごは、その効果を如何なく発揮した。
仲間の冒険者三人の肉体に光のパスを繋いで包み込み、全てを癒やしたのだ。
光が消えると、マリーシャの体が傾ぐ。それをサミュエルが支えた。

――マリーシャ殿、マリーシャ殿!気を確かに!?

――わ、私は、どうしたのでしょう?急に気が遠くなって……

揺さぶられて意識が元に戻ったマリーシャは、サミュエルに動揺しながらも自分の力で立ち上がる。
それを見て我に返ったスィルが何かに気付いたようだった。

――ライオット、怪我は!?

――あれ、治ってる…?腕もぜんぜん痛く無いぞ!?

ライオットがぶんぶんと折れた筈の左腕を回した。

――ああ、マリーシャ、ありがとう!

スィルの涙ぐんだ感謝。
マリーシャは呆然としながらもスィルに頷くと、光の神イーラよ感謝します、と祈る。

――まだ余力を残していたか。おお、闇の神アンシェラよ!

追い詰める寸前だった相手の回復。
戦況を一気に覆された闇の神官ロドリゲスは、舌打ちながらに両手を胸の前で向かい合わせる。そしてアンシェラ様に祈りを捧げ始めた。
私は思わずアンシェラ様を見る。

「おう、丁度良いわえ。」

つい、と動かされる闇の神の指先一つ。
戦いの現場に目を戻すと、ロドリゲス神官の両手の間に生じた闇の力が奔流となり、一気にマリーシャと子供達全員が闇に包まれ――一瞬の後、霧散した。

――き、消えた!?

残されたライオット達はパニックになっている。マリーシャの間近にいたサミュエルは尚更だ。マリーシャの名を必死に呼ばわっている。
敵方も一瞬呆然としたものの、ややあって何か勘違いした闇の神官が「我が闇の神がお力を貸してくださったのだ!」と高笑いをしだした。悪いが彼らは光の神の教会の庭だ。
表情を険しくした冒険者三人はさておき、可哀想な魔狼も何とかしておくか。

「『魔狼をその故郷の森に転移させる。尚、転移後は魔狼の食中毒は治る』にゃ!」

吐き疲れてぐったりとしていた魔狼の巨体が掻き消えた。幸せに暮らすんだよ。
次は何をしようかと考えていると、

目が、合った。

ダークエルフは、こちらが見えない筈なのに、こちらを真っ直ぐ見ていた。
えっ?と思う間も無く。
視線を逸らさぬまま、その口が動く。


――地の精霊王ノームよ。かの者を捕らえ、ここに。



***



その部分だけ大地がぬかるんだようになり、それは渦を巻いて一つの小さな影を吐き出した。
普通の地面に戻った場所に呼ばれた存在は立っていた。
ダークエルフの男はその姿に瞬いたのみだった。
予想外に驚いた時、人は反応が追いつかないものである。

場に、静寂が訪れる。
それはティリオンが起こした変化に気付いた他の者達にしても同じ事だったからだ。

「にゃー…」

視線を一点に集め、居心地が悪い思いをしている私。
ティリオンは呆然と呟いた。


「――お前か。まさか、こんな子供だったとはな。」

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