2015年4月24日金曜日

25にゃん

「――武器を捨てて投降しろ。こいつがどうなっても良いのか?」

ティリオンに首根っこ捕まれてぶらさげられています、なう。


***


――地の精霊王ノームよ。かの者を捕らえ、ここに。

ティリオンが言葉を紡いだ瞬間、部屋中に小さな老人の姿の地の精霊が十数体程現れた。
地の精霊はシルフィードのように羽のあるタイプではなく、三角帽子を被った可愛らしい姿である。
一回り大きい個体がいて、一番立派な髭を持っていた。
シルフィードと同じように考えるとこれが地の精霊王ノームなのだろう。
なのだろう、が。

彼はまるで生まれたての小鹿のようにプルプル震えていた。いや、明らかに怯えている。
理由は分かっているのだ。背後からそら恐ろしい殺気混じりの圧力プレッシャーを感じるもの。

「……地の精霊如きが神の至高の一時に水を差すか、良いご身分だのう。」

"もっ…申し訳ないですじゃ!じゃが、どうしても来て頂かねばっ…"

アンシェラ様に這い蹲るノーム。他の地の精霊も土下座モードだ。

"ひらに、ひらに…!"

「さて……どうするかのう。」

私の肉球を弄び続けながら意地悪く言うアンシェラ様。ノームの声が涙声になってきていた。
流石に可哀想になったので、行こうと思う。
いや、アンシェラ様のくんかくんか攻撃から逃げたいからって訳じゃないよ、本当だよ?

「他ならぬニャンコがそう言うなら仕方ないの。しかしノームよ、ニャンコに危害が及ぶのではないかえ?」

"いえ、決してそんな事は……そ、そうだ、ノームの祝福を差し上げればよいのですじゃ!"

言って、ノームは慌てて宙に指を滑らせる。茶色い光が踊り、一つの首輪を形取った。
首輪には同じ色の鈴がついている。

"オリハルコン製の、地の祝福を込めた鈴ですじゃ。これがあれば地の精霊はニャンコを守りますじゃ。"

それだけではなく、この鈴を付けていれば地の精霊の攻撃が効かなくなるそうだ。
アンシェラ様はほう、と感心したようにその鈴を手に取る。
と、鈴が真っ黒になった。
元の茶色い金属の光沢は無くなったが、その代わりに、鈴の側面に黄色く光る宝石がついていた。

"あああ、我らが祝福が精霊石にっ…!?"

「我が加護も込めて置いたぞえ。これでニャンコは闇の神の庇護下にある事になるのう。」

アンシェラ様は嬉しそうに鈴の付いた首輪を私に付けた。チリリ…と音を立てる。
鈴の表面積とノームの反応から推測するに、恐らくアンシェラ様の祝福がほとんど地の精霊の祝福を押し潰しているに違いない。で、地の精霊の祝福は凝縮されて精霊石になった、と。

"では、ここに入って欲しいですじゃ……"

ノームが色々諦めたような濁った眼差しで床を指し示す。
地の妖精の能力なのだろう、そこだけ切り取ったように丸い泥水が渦を巻いていた。
泥水に入ると、ズブズブと沈んでいく。
しかし不思議と泥水に濡れた感触は無く、まるで体全体に薄い膜が張ってあるかのようだった。

「ではな、ニャンコ。その鈴は、ニャンコ以外の者が手にする事が出来ぬように仕掛けをしておるからのう。ニャンコが何処に居ようとも、ずっと我と繋がっている証――我は何時如何なる時でもニャンコを見守っておるぞ。」

「!!!」

アンシェラ様がお手振りをして見送ってくれる。

何処に居ようとも繋がってるとか…深海ですら逃れられないGPSを付けられているようなものか!

祝福はあくまでも建前で、それこそが真の目的なのだと直感で分かってしまう。
壮大な神によるストーキングの予感に慄きながら、私は奥へ奥へと沈んで行った。



***



「ニャンコ!?」

いきなり地面から現れた私に、スィルがはっと我に返って呼ぶ。
ダークエルフはその反応を見て取ると、ふっ笑ってこちらに手を伸ばしてきた。
という訳でこの顛末である。

「ニャンコを離せ!!」

「人質とは卑怯な!!!」

「でかしたぞ、ティリオン!」

マリーシャと子供達や魔狼の消失に呆然としていた為か、冒険者達は反応が一歩遅れてしまった。
ロドリゲスは嬉しそうだ。
しかし。

"お願いですじゃー、地の愛し子を食中毒にするとか酷い事はしないで下さいですじゃ!傷つけないで下さいですじゃー!"

"ニャンコ、やっちまうがいいわー!"

すぐそこの地面でノームが青ざめて首を横にぶんぶん振りながら懇願してくる。
一方シルフィードはいい笑顔で親指を下に向けていた。
失礼な、私だって血を見るような荒事はいやだよ?平和主義だし。
しかし食中毒にするのはダメ、傷つけるのもダメ。
自然に解放されて彼らの下へ行くには…。

自然、自然…私はしばし考えた。
あ、そうだ。

「『ティリオンは凄く尿意を催す』にゃ。」

お手柔らかにいいいっ、と懇願するノームを横目にぼそっと呟く。生理現象なら自然だし、大丈夫だろう。
後ろのティリオンが、うぐっと呻いたのが聞こえた。

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