2015年4月24日金曜日

29にゃん

追っ手はこいつが仕掛けたに違いない。
地の精霊の愛し子であるティリオンが手を貸せば、逃げる先々の情報もお見通しだし、転移で先回りも出来るって事だ。

私はゆっくりと起き上がって振り返った。
ティリオンはぽかんとしたように目を大きく見開いている。

「どういう事だ――痺れて動けない筈。地の精霊術を食らっておきながら、何故起き上がれる。お前、何者だ?」

ふつふつと怒りのボルテージが上がっていくのを感じた。
今度は大の方にしてやろうか?――残酷な考えが頭を支配してゆく。

"お、怒ってますのじゃ、やっぱりニャンコ怒ってますのじゃー!!"

"申し訳ないですじゃー、地の攻撃は無効化したんじゃが愛し子の手の衝撃までは無理だったんじゃー!"

地の精霊達やノームの泣きながらの謝罪をBGMに、私は無言で鈴をチリチリと鳴らして見せた。
鈴の――正確には側面にある石を見て、ダークエルフが驚愕の表情を浮かべる。

「それは地の精霊石!?――闇の神の祝福のみならず、地の精霊の祝福もあったのか!」

「……あったらどうなのにゃ?」

「何故お前が地の精霊石を持っているのかは知らないが――俺はお前に敵対出来なくなった。だが、放置もしておけない。」

「山賊達をけしかけたのはティリオンにゃ?敵対出来なくなったなら山賊達をどうにかしてちょーらいにゃ。」

「何故?俺にとってはあの魔術師の生死はどうでもいい。お前をここで捕まえれば済む事だ。」

はぁ?敵対しないけど助けもしない?
なら時間の無駄だから引き止めないで!

「じゃあわたちも使えないティリオンなんかに用はないにゃ。『地の精霊』、今すぐサミュエルしゃんの所に連れてってちょーらいにゃ!」

周囲一面数え切れない程の地の精霊が現れ、一瞬にして泥の渦が出来た。

「これだけの地の精霊を一度に使役するだと!?――ま、待てっ!」

うるさい、今はそれどころじゃない。
サミュエルを助けないと!――私はティリオンの制止を無視して泥の渦に飛び込んだ。



***



泥の渦から出るなり、十メートルほど先に、ボロボロになったサミュエルが蹲っているのが見えた。
ふくらはぎに矢が貫通していて血が流れている。
山賊達が数人がかりで蹴っていた。周囲ではもっとやれとゲラゲラ笑う者達。
サミュエルはピクリとも動かない。
動かねーな、死んだか?、水を持って来てぶっ掛けろ、いや、刺さった矢を捻ってやれ等という会話が聞こえた。

目の前が、真っ赤になった。
怒りが一瞬にして天元突破する。


許さん、こいつら。


食中毒など生ぬるい。


一生残るトラウマを残してやる――慈悲など一切無用!


「『太陽が昇るまで山賊達は全員正気を保ったまま男同士で強制的に乱交しまくる』にゃ!!!――地の精霊、サミュエルしゃんをここへ!」

"ひいいい、なんて恐ろしい子供なのじゃああ――!!"

ノームの悲鳴。そう、私は今この瞬間、鬼になった……。

サミュエルの体が突如飛び出した土壁に阻まれ、山賊達は驚いて一斉に尻餅をついた。
暫くして私のそばの土が泥になり、そっと吐き出される。

「な、何だ、何が起こった!?」

「おい、あそこ――」

混乱する山賊。一人がこちらを指差した。
サミュエルを蹴っていた男の一人がニヤつきながら起き上がる。

「おお、猫獣人の餓鬼じゃねーか。大人しくおじさんの所に――」

ぶちゅ。

後ろの男が、そいつの肩を掴んで振り向かせるなり…あまり美しくない、むさ苦しい男同士のキスシーンが繰り広げられた。
私はその事に少し冷静さを取り戻す。

「ぎぇっ、お前、何しやがる!?」

「か、体が勝手に…」

…まずはサミュエルの傷を治療しないと。

「『サミュエルのふくらはぎを貫通している矢を私の手元に転移、その傷周辺にある化膿菌を殺し、傷を完全修復』…にゃ。」

矢が私の小さな手のひらに現れた。それをぽいっと捨てる。

「『サミュエルが全身に受けた傷・打撲を完全に癒せ』、にゃ。」

これでよし、と。
一息ついたところで、山賊達に視線を戻す。

「ぎゃー、やめろ俺にそんな趣味はねえええええ!!!」

「初めての相手が男だなんて嫌だあああああ!!」

「助けてくれええええええ!!」

「うわーん、母ちゃああああああん!!!」

山賊達は悲鳴を上げながらも脱がし脱がされ、下着や裸になってもつれ合っていた。
命だけは生かしてやるが、男としては死んでもらう――それが、私の与える罰だ。


"うっほっ!うっほっ!うっほっ!うっほっ!…"


…いつの間にか風の精霊が十数程空中で手拍子やダンスを開始していた。

罰とは言え、それは同時に断罪者たるが所以の自分の罪でもある。
せめて自分の下した結末がどうなるのか、最後まで見届けなければ。

とうとう一人がもう一人の尻を目掛けて――




「うわあああああ、これ以上は子供が見てはダメだああああっ――!!!!」




色々な感情が入り乱れ、泣きが入ったような悲鳴。
いつの間にか追って来ていたティリオンが、サミュエルと私を引っ掴むなり、目にも留まらぬ素早さで転移の泥に飛び込んだ。



*おまけ*

一方その頃のライオット達は――

いきなり目の前で始まった男達の裸の狂宴。
ペアになりきれなかった一人が不可抗力ながらライオットにロックオン。

「ぎゃー、やめろ、こっちくんなああああああ!」

「どうなってるんだよおおお、誰か止めてくれよおお!」

逃げるライオットを追い回す山賊。

「ぎゃあああ、アンシェラよ、我を守りたまええええっ!ぜぇぜぇ…これもあの忌々しい猫獣人の仕業か!?」

ロドリゲスは必死に闇弾を連発して身を守っているが、体力的に時間の問題だ。

「きゃー、何、何!?」

一人女で蚊帳の外のスィル。
木の上で顔を真っ赤にさせ、両手で覆いながらも指の間からチラチラと見ている。どことなく嬉しそうなのはきっと気のせい。

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