2015年4月24日金曜日

4にゃん

冒険者一行は、この村にある小さな宿…というか民宿みたいな場所に宿泊するようだ。
ひとまず落ち着いて話せる場所に、ということで私はその民宿に連れて行かれたのである。
希少種で目立つということで、マントに包まれるといういたれりつくせりである。
宿の一室に入るとマントを解かれ、とりあえず自己紹介ということになった。

「俺達は見ても分かるだろうが冒険者だ。ちなみに俺はライオット=コルト。剣士をやってる。」
「私はサミュエル=シード。魔術師です。」
「私はイーラ教神官をしております、マリーシャ=メドセナです。」
「私はスィル=イシュランドール。見たとおりエルフの弓使いよ。」

「わたちは…」

私は名乗ろうとするのをやめ、俯いて床を見た。ここはファンタジーの世界だ。
真実の名前を聞かれるとよくないとか、ありそうだから。
口ごもった私を見て、「もしかして、名前がないのですか?」と助け舟を出してくれるマリーシャ。
私は頷いた。
ケット・シーの村とか元居た場所とか訊かれても分かんないし、記憶喪失という線でいこう。
で、本名は黙っておいて名前をつけて貰おう。それが安全だ。

「実は、名前も元居たおうちも覚えてなくて分からないのにゃ…。悪い人たちは、おい、とかおまえ、とかしか言わなかったのにゃ…。」

しょんぼりして見せると、冒険者達は顔を見合わせる。ひそひそと話し始めた。
耳を澄ませていると、誘拐…盗賊…記憶喪失…等などの言葉が節々に聞こえる。

「とりあえず、名前が無ければ不便だな。」
「ひとまず名前を付けてはどうでしょうか?」
「それならば私が。この子も光の神イーラの子、よい名前を授けましょう。」
「それはいい考えね。」

上からライオット、サミュエル、マリーシャ、スィル。
思い立ったが吉日、神速を尊ぶ冒険者達は決断も早く、ぽんぽんぽん、ととりあえず私の命名をしようということになった。
どんな名前を付けてもらえるんだろう?
マリーシャさんが私の前に立ち、杖を掲げた。
杖は淡く発光を始める――何だかドキドキする。
期待を込めて見つめる私に、マリーシャは高らかに告げた。

「光の神イーラよ、さまよえるケット・シーの子にニャンコの名と祝福を与え給え。」

キラキラと、杖の光が私の頭上に降り注いだ。
何か暖かいものに包まれた幸福感が――
って、ちょっと待てえええええっ!

ニャンコ?

名前はまさかのニャンコ!!?

「ニャンコ、か…力ある言葉で愛でるべき者という意味でしたよね。」

魔術師サミュエルがあごに手を添えてうんうんと頷く。マジか。

「ええ、か弱いケット・シーですもの。この過酷な世界で生き残るために、神の愛と加護を強く受けられるようにとその名に決めたのです。」

頬を染めて、いい名付けが出来た!と女神のごとく微笑む神官マリーシャ。

「あなたは今日からニャンコ、ね。ここはコネコ村だから、名乗るときはニャンコ=コネコかしら。」

呆然としていると、ぽん、とエルフのスィルが頭に手を乗せてきて撫でる。
この世界では姓として出身地を使うのか――というか、名前のみならず姓までも!
剣士ライオットと目が合うと、白い歯を見せていい笑顔で追討ちのサムズアップ。

「ニャンコ=コネコか。いい名前を貰ったな!」

あまりのことにわなわなとするも、猫の顔では気色ばんでみせても冒険者達にはいまいち伝わらず。
名づけを済ませた冒険者達が和やかに話している中、どこからか誰かの高笑いが聞こえてくるような気がした。

おのれ、神!
まさか名付けられた気が全くしない名前で来るとは!
私はどこまでも呪われているようである。

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