2015年4月29日水曜日

61にゃん

怒りは期せずして精霊を呼んだ。
城が、地で揺れ、火が爆ぜ、部屋中に敵意に満ちた風と霧が吹き荒れた。
チリリリ……と鈴が揺れてもいないのに音だけを立てる。

「「「「ニャンコ!」」」」

ライオット達が私を呼ぶ。
それに私は正気を取り戻し、精霊達も収まった。
私の鈴の中に、精霊王が全員いるのが分かる。
特にウンディーネは怒っていた。
霧が、エアルベスさんの方向へ流れていく。恐らく彼女ウンディーネだろう。

「ニャンコ…」

エアルベスさんの声。
彼女の表情は分からないが、心配そうな響きであることは伝わってくる。
ライオット達からも同じ視線を感じながら、私はギュンター公爵を見据えた。
先程の精霊の力を目の当たりにした公爵はひっと悲鳴を上げる。

「ドラゴンしゃんのところへ行ったとき、ギュンターコウシャクとヤミのシンカンが来たのにゃ。隠れていたわたちはスベテ聞いたにゃ。ギュンターコウシャクはヤミのシンカンとケッタクしてドラゴンしゃんを使って悪いことをしようとしていたのにゃ!『準備も整った――後はこやつを解放するだけよ』って言ったのにゃ!そもそもエアルベスしゃんはケット・シー達のお世話でタイヘンだから、ドラゴンをさらおうなんてだれかの命令でもない限り考えるワケないにゃ。それに、エアルベスしゃんがいなくなったら世界樹の畑の管理が出来なくなるにゃっ!」

矢継ぎ早に言うと、ギュンター公爵は顔が真っ青になった。

「お、お前…何を言うのだ!そ、そうだ、私はあの闇の神官に呪われていた!だから心にもない事を言ってしまい、妙な踊りを踊らされて――大体、ドラゴンと一緒に居たというのならなぜお前は無傷なのだ!?」

「ドラゴンしゃんは悪い子じゃなかったからムヤミにひとを傷つけないのにゃ。悪いのはコウシャクのほうにゃ!」

「王、お聞きになりましたか!このケット・シーはあろうことか凶暴なドラゴンよりも私の方が悪いと――」

「黙りなさい、ギュンター公爵とやら!先程から聞いておれば神の御子に対してなんと不遜な物言いだ!」

「ギュンター公爵。神の前に恥ずべき心当たりがなければ黙られていた方が良いでしょう。」

クリステルが激昂して口を挟み、ヴォードが静かな力ある声で咎める。
公爵はくちをパクパクさせると、王を振り返る。
圧倒的に公爵の不利である。

「王よ、私よりもこのようなケット・シーの言葉を信じられるのですか?」

しかしイシュラエア王は無表情で口を閉ざしているだけだった。

でも、王様もこの面子の前で無関係なフリしてるけど同罪っぽいよね。
何よりエアルベスさんを庇わなかった事で評価はマイナスだし!

「『イシュラエア王は今凄くうんちに行きたくなる』にゃ。」

意趣返しにぼそっと呟く。
何他人のふりしてるのさ、同じ穴のムジナが!

王ともなると、他人に付け込まれぬよう、常にポーカーフェイスを保つ訓練がなされているのだろう。
イシュラエア王は王者らしく威厳に満ちたものだった。
私の呪文にほんごにも、少しピクリとしたが、それだけだった。

「……ギュンター公爵。そのような言い争いをする為に宮廷へ来たのではあるまい。話が進まぬ。そなたは一旦下がっているがよい。皆も、ギュンター公爵の振る舞いや疑念についてはこのイシュラエア王が時を改めて直々に問いただす――良いな。」

うんちに行きたい――何より、私が矢面に立った事で二大神権を敵に回しかねず、またボロが出ると思ったのだろう。
王様は理由をつけて強引に公爵を下がらせた――というか、騎士によって外へつまみ出された。
上手く逃げたな、と思う。

「『ギュンター公爵は酷い水虫になる』にゃ。」

呟いて、溜飲を下げる。
かゆみジュクジュク地獄に苛まれるがいい。

「少々疲れた、少しばかり休むとしよう。このような堅苦しい場で話しても何であろう、別室にて茶を用意させる。」

そう言ってイシュラエア王はごく自然な流れでうんちタイムを確保した!
玉座から立ち上がると侍女に目配せをし、さっさと退出する。
精神的に切羽詰まっている筈なのに、その巧みな手腕は見事なものである。
これが権謀術数の中に生きる者か!私は少々感動を覚えた。

流石、王――我慢をしない男よ!



***



イシュラエア王がうんちをしているであろう間、私たちは別室に通される。
大きなテーブルに座ると、綺麗どころのお姉さん達からお茶とお菓子で接待された。
現在、皆から「もっと自分達も頼りにしろ」「心配をした」等とエアルベスさんを庇った事で心配の言葉やお小言をもらっている最中である。

「ニャンコ、先ほどは…庇ってくれてありがとう。」

エアルベスさんが少し涙ぐんでお礼を言った。

「エアルベスしゃんは何も悪い事してないにゃ。それに、エアルベスしゃんがいなくなるとケット・シー達はおかあしゃんを無くすようなものなのにゃ。エアルベスしゃんの事はみんなに代わってわたちが守るにゃ。だから安心するにゃ。」

厳しくも優しい、ケット・シー達のお母さん的な存在――様子を見てると嫌でも分かるし感じる。
私が胸にこぶしをトンとぶつけてそう言うと、彼女は目を袖で覆い、肩を震わせていた。

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