2015年4月26日日曜日

58にゃん

「ウンディーネ!ニャンコをここへ連れてきてください!」

世界樹の畑の近くの大きな溜池のところまで来ると、エアルベスは叫んだ。
続いて到着したライオットは水面の変化を見つめる。

水がさざ波を立てていた。
数分すると、やがて大きな渦を描き出す。
その渦は速度を増してゆき、とてつもなく大きな影を吐き出した。
それは天に向かい咆哮し、その音は地面をビリビリと揺るがす程であった。

「――な、何故ドラゴンも出て来るのですか!?」

ここに移動させて来るのはニャンコだけの筈。なのに何故ドラゴンまで!

叫びながらも咆哮の衝撃に中てられたエアルベスはパニックに陥る。
本能的な咄嗟の判断で、ライオットがそんな彼女の手を引いてその場を離れるべく駆け出した。

ケット・シー達も職員も、悲鳴を上げて逃げ惑う。
ドラゴンは大きな翼を動かして水から這い上がり、周囲を睥睨する。
後から着いてきた最高司祭らはその迫力に立ち竦んでいた。



***



宝石…もとい、ドラゴンのうんこを手放した私はとりあえずその手を洗う。

"――確かに我の糞ではあるが宝石なのは間違いないぞ。炎を吸収した後の水の魔石だ。魔族や人間共は盗みに来る程欲しがるのだが。"

「そんなモンダイじゃないにゃっ!うんこは綺麗でもうんこなのにゃ!……それより、ジュゲムも一緒に行くにゃ!」

"ニャンコ、それは…"

「このままジュゲムをここにずーっと置いておくつもりかにゃ?オソカレハヤカレというやつなのにゃ。」

"……確かに…仕方ないですわ。いざとなったら愛し子はわたくしが守ることにいたします。"

「わたちも猫の手だけど力を貸すにゃ。ジュゲム、先に飛び込むにゃ!」

ドラゴンは渦に飛び込む。転移の水は、その巨躯をゆっくりと水底へと沈めていった。
それを見届けてから、私も続いて飛び込む。
一瞬の後――水から出ると、丁度ドラゴンが咆哮を上げたところだった。

"貴様ら、我の名を言ってみろおおおおおおっ!!!"

いきなり何を言ってるんだジュゲムは。
きっと娑婆に出られた解放感から叫んだに違いない。

私はジュゲムに構わずライオット達の姿を認めて走っていく。
近くまで来たが、彼らはドラゴンに気を取られて気付いてくれなかった。
ライオットの服を引っ張る。
彼はこちらをちらりと見たもののまたドラゴンに視線を戻す。
あっ、そうだった!
今、私、人間に見えてなかったんだ。

"――ニャンコ、ラッキーな事に俺の愛し子もここに来てた!丁度良いからこのままドラゴンを連れて帰ろうと思う。これから一芝居打つから驚くなよ?"

サラマンダーの声がしたかと思うと、誰かの気配を隣に感じる。
見ると、スカーレットさんだった。

「ありがとう、ニャンコ――後で魔族領へ来てね、お礼をしたいから。」

耳元で囁いて、スカーレットさんはジュゲムの元へ走る。彼女の姿がゆらりと崩れた。
瞳と髪はそのままに、頭の両サイドに角が生え、耳が鋭く長く伸びる。

「ま、魔族!?」

誰かの驚愕の声。
魔族、という言葉に皆スカーレットさんに注目していた。
彼女は凄い跳躍力でひらりとジュゲムの上、顔に近い首の大きな棘の間に飛び乗った。
私はひとまず姿を消す魔法を解いて成り行きを見守る。
ジュゲムは故郷に帰るべく羽ばたき始めた。

「くっくっくっ……はーっはっはっはっ!!」

ジュゲムに跨ったスカーレットさんは悪役っぽく高笑いした。
一芝居――ちょっとノリノリだねぇ、お姉さん。

「聞け――我は魔王スカーレット=エクトマ=レトナーク!愚かな人間どもよ、よくも我ら魔族が保護せしドラゴンを攫ってくれたな。その償いとして神々の祝福を受けしケット・シー、ニャンコ=コネコを魔王城まで連れて来い!さもなくば魔族はこの国を無慈悲な軍隊で無慈悲に責め滅ぼすであろう!」

"まぁ、ダイコン役者ですわね。"

"ドラゴンの迫力でごまかされてますじゃー。"

"無慈悲言いすぎよねー。"

"お前ら…言いたい放題だな…。"

精霊達の言葉にスカーレットさんの頬が少し赤くなったように見えた。
その言葉と共にジュゲムもノリノリで吼え、炎のブレスを吐く。

"刮目して見よ、我が無慈悲な炎ォォォ―――!!!!"

スカーレットさんにドラゴンの言葉が分からないようで良かったと思う。
ジュゲムのブレスは世界樹の結界に当たって広がり、ピキピキ…と嫌な音を立てた。
ジュゲムの巨体が宙に浮く。

その姿はぐんぐんと上昇し、やがて結界を越え――空の彼方へと消えていった。

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