2015年4月25日土曜日

42にゃん

「ギュンター公爵って、あいつの父親よね……どうしよう、ニャンコ…。」

ティリオンの衝撃的な言葉にスィルは俄かに不安になったようだ。

「――落ち着いて下さい。見学した限りではあそこは正常に運営されているようでした。しかし彼のいう事ももっともですから、一度調べてみませんか?」

「サミュ、俺もそう思っていたところだ。あいつの父親の事だ、妙な事をしていたら大変な事だからな。」

「私も神殿へ探りを入れてみましょう。」

マリーシャがそう言ったところで、ライオットがそう言えば、と切り出した。

「結局、俺たちに出会う前にニャンコを捕らえていたやつらの情報って分からなかったな。」

「ロドリゲスと言いましたか、あの過激派の闇の神官が怪しいと思います。」

「そうですね、子供たちを攫ったり魔物を扱ったり…この国で何か良くない企みをしているのは確かでしょう。」

「どうした、スィル?」

剣士がエルフの異常に気付く。彼女は青ざめていた。

「どうしよう……ニャンコ、もしかしてとんでもない事に巻き込まれているのかも……」

「どういう事だ?」

「皆、聞いて。ニャンコは私達と出会ってから短い間に、闇の神、光の神、風、地、火の精霊の祝福を授かっているわ。後、残すのは水だけ。私、あの子がいつか水の祝福も授かる気がするの。そして、ニャンコを狙う勢力は、ニャンコが神や精霊に愛される存在だという事を知っていた――ニャンコを利用すれば、国を、いえ、世界でさえも揺さぶる程の事を起こす事だって不可能じゃないわ。」

エルフの言葉に皆息を呑んだ。

「……という事は、ニャンコを捕らえていたやつらはどんな手段を使ってでもニャンコを取り戻そうとするに違いないですね。」

「これはいよいよ調査をしなければいけないな。それも、迅速に。」

目を合わせて頷きあう。
すっかり酔いが覚めた冒険者達はテーブルを立ち上がった。


***


彼らを見送った私は力なく手を下ろした。
後ろに気配を感じて振り向くと、エアルベスさんだった。

「ニャンコ。あなたは今日から施設で共に暮らす仲間です。改めて宜しくお願いしますね。」

「よろしくお願いしますにゃ。」

私は彼女をじっと見つめる。
凛とした雰囲気を崩さないのはさすがケット・シーに慣れているだけはあるなぁ。
ちょっとそのポーカーフェイスを崩してみたい気もする。

「では、ニャンコの使う部屋に案内します。ついて来てください。」

案内された部屋は広さこそ一般的なものだったが、家具などの大きさはケット・シーに合わせてあった。
本来は相部屋なのだが、元々いたケット・シーは偶数なので私だけ余って個室である。

「にゃっ!?」

お部屋の中に箱が置いてあった!
ライオットの落書きもそのままである。ベッドの上には買ってもらった洋服も!
エアルベスさんを見上げると、彼女はふっと微笑んだ。

「本来なら公平さを欠いてしまいますが、あなたは外で暮らしてきましたし、彼らとの繋がりを完全に絶たれるのも寂しいでしょうから特別に計らいました。」

ただ、他の子を部屋に入れて見せてはいけませんよ、と言われる。
それでも私は嬉しくて嬉しくて、思わず箱の中に入る。窓から顔を出してお礼を言った。
まだお話は終わっていませんと言われたので顔を引っ込める。

「『エアルベスはわたちの可愛さにメロメロになる』にゃ。」

出る直前、ぐふっ…とくぐもった声が聞こえたが、エアルベスさんの顔は少し赤くなっているだけで変わらぬままである。

あれー?

拍子抜けな気持ちでいると、作業服やエプロン、普段着を支給された。
ケット・シーだしもふもふだからそういうのは必要ないのではと聞くと、気持ちの問題なのだそうだ。
恐らく、ケット・シーは愛玩動物ではなく他の種族と同等の知恵ある生き物なのだという主張としての服なのだろう。

明日から世界樹の葉摘みの仕事をするので、作業着を着るように。
起床の鐘が鳴ったら着替えて外に出ること。迎えのケット・シーが来るから。

「これから夕食まで時間がありますが、この部屋で休むなり、施設内を見て回るなり自由に過ごしていて結構ですよ。鐘が鳴ったら夕食ですので、道に迷ったらその辺にいる職員に聞いて食堂まで来ること。」

エアルベスさんはそう言って去っていった。私は一人、残される。
スカーレットさんの依頼を思い出す――ドラゴンを隠すなら、どう考えても世界樹の結界内が一番怪しい。

さて、行きますか!

私は気合を入れると部屋の扉を開けた。

 
 
 
*おまけ*

エアルベスは新しく施設に入ったケット・シー、ニャンコ=コネコの部屋を出ると、早足で廊下を歩く。
そして誰も居ない柱の影まで来ると、顔を覆ってしゃがみこんでしまった。
元々彼女は可愛いもの好きである。
この施設に就職を決めたのは、愛らしいもふもふケット・シー達に囲まれたいという不純な動機からだった。

ケット・シーは可愛い。猛烈に可愛い。

しかし甘やかしてしまう者にはこの仕事は勤まらない。
可愛さに耐え切れず辞めていった同僚の如何に多い事か。
そんな中で、彼女は生き残るために必死だった。
「エアルベス、クール、クールになるのよ」とお題目のように唱えつつ、ポーカーフェイスが標準装備になるように努力した。
可愛らしいケット・シーのおねだりに耐えに耐え、甘やかしすぎないよう心を殺す訓練をした。
そして、そんな努力は実を結び、保護区施設長にまで上り詰めたのである。

しかし。

真っ白で柔らかそうな毛並み、青い透き通るような瞳。
ニャンコ=コネコはケット・シーの中でも群を抜いて可愛い。可愛過ぎる。
箱の穴から顔を出した時なんか…危うく標準装備の筈のポーカーフェイスが崩れそうになった。

「…とんでもない強敵だわ……。」

耳まで真っ赤にしてプルプルと震えながら、エアルベスは一人悶えた。
 
 

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